キャリア25年以上の技術職員が硝子(ガラス)工作で研究者の創意工夫を支える 北海道大学GFC硝子工室インタビュー

2021/08/19

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試作の匠
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北海道大学の理学部キャンパス内にある「理学部6号館低層棟」には、グローバルファシリティセンター 試作ソリューション部門の硝子工作を担う「硝子工室」がある。ここで25年以上硝子工作に携わり、主に理学系研究者に対して研究用機器をオーダーメイドしてきたのが竹内 大登さんと菅野 孝照さんだ。

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▲     在籍28年目の竹内 大登さん

 

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▲     在籍25年目の菅野 孝照さん

 

「中が見通せる、反応性が低いというガラスの強みが活きるものなら、研究者のニーズに応えてなんでも作ってきました」と竹内さん。

 

特に物理化学や電気化学分野の研究を支える製作事例は豊富であり、物質・材料研究機構(NIMS) エネルギー・環境材料研究拠点 副拠点長を務める増田卓也客員教授(※ 2021年6月現在)の研究も、若手研究者時代から支えた。また、大学や研究所のみならず企業の研究者に向けても研究用機器の製作を行っている。

 

「研究者、特に若手研究者の創意工夫をもっと応援したいんです」と語る竹内さんへのインタビューを中心に、硝子工室のいまについて伺った。

 

直径180ミリメートルから2ミリメートルまでガラス管を常備 幅広い研究用途に対応

 

「加工できる上限は180ミリメートルまでです。これはガラス旋盤に入るサイズということですね。この大きさだとだいたい容器の用途で、地震火山観測センターで使っていただいている水管傾斜計もこのタイプです」と竹内さん。実際に180ミリメートルのガラス管をガラス旋盤にセットし、大きさを示してみせた。

 

北大ガラス工室03

「小さいほうは限界はないですが、小さければ小さいほど加工は大変ですね。ガラス管は直径2ミリメートルから常備して、さまざまな用途に対応できるよう準備しています」

 

物理化学、とりわけ光化学や電気化学領域を中心に硝子工作で研究を支援

中が見通せる・反応性が低いというガラスの強みは、特に光化学セルや電気化学セルの製作において最大限発揮される。こうしたものづくりを中心に、竹内さんは研究者の挑戦を支援してきた。

 

「コロナ禍以前は新規の依頼が全体の3割ほどでした。ガラスなのでどうしても利用時に割れてしまい、その修理をしたり、開発済み製品を増産したりするのが残りの7割です。研究者が『新しいことをやりたい』という時に、我々も新しいチャレンジをすることになります」

 

硝子工室の代表事例は、物質・材料研究機構(NIMS) エネルギー・環境材料研究拠点 副拠点長を務める増田卓也客員教授が、若手研究者時代に開発を依頼した光化学セルだ。

 

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▲     増田卓也客員教授から当時依頼を受けて開発した光化学セル

 

溶媒を入れた後に円の部分に板ガラスを留め、密閉状態で紫外線を照射して反応を確認する。本製品では白金とテフロンの電極を接続し、入れ替えることでさまざまな反応を見ることができる。

 

「チャレンジングな研究で難易度の高い製作ほど、最初に研究者の方から提示される案は実現不可能な箇所があることが多いです。そういうときは、『こっちをこう曲げて、こういった形でも同じ結果になるよね』と、こちらからリードする部分もあります」

 

こうした研究用機器については、大学や研究所だけでなく、企業からの製作依頼も受け付けている。事例としては、2019年に某素材メーカー企業の依頼で製作した電気化学セルだ。「複雑な形状なので何度も制作中に割れてしまい、かなり骨を折って、1か月ほどかけて製作しました」という。

 

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▲某素材メーカー企業の依頼で製作した電気化学セル

 

この依頼をした研究者は、北海道大学グローバルファシリティセンターに在籍していた竹内さんの元同僚だ。現在はメーカー企業で主任研究員を務めている。

 

「メーカー企業に転職した後も我々の技術力を信頼して製作を任せてくれました。もちろん、既存のつながりからだけでなく、まったく新規のご依頼にも応える準備はできています」

 

図面通りにならない硝子工作だからこそ必要な「コミュニケーション」

これら研究用機器を製作するのに「図面はいらず、フリーハンドの指示があればOK」と竹内さん。その理由は、「ガラスはドロドロに溶かした状態を経るので、図面通りに作れる人はいないから」だという。正確な図面以上に「要点を掴むためのコミュニケーション」が必要とされる。

 

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「『装置のどこが一番大事で、どの長さが大事か』ということを最初に聞くことになります。どこをなるべく精度を良く作ってほしいのか把握したら、それを実現するためのこちらの試行錯誤ですね」

 

ある程度のところまでは、28年の経験をもとに、注文を受けた際に要点を掴めるという。「そんなに苦労して図面を書かなくても、作り手に相談してほしい」とのことだ。

 

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▲     PYREXガラスを用いたスライドガラス洗浄用機器の説明をする竹内さん。
「まず接着剤で仮留めし、溶かしつつ接着剤を飛ばしてこの形になっています」

 

先達を見てきた技術職員から、若手研究者へのエール

「新しいことをやろうという意欲が、とりわけ若手研究者にとっては大事だと思います」と竹内さんはいう。増田卓也客員教授など、物理化学分野の最先端を行く研究者を若手時代から見てきた経験からの言葉だ。

 

「ぜひ新しいテーマに挑戦したり、『この実験結果でいいのか』という疑問を突き詰めてほしいと思います。我々技術職員はその挑戦を全力でサポートすることが本来の使命だと思っています」

 

北大ガラス工室08

竹内さん、菅野さんら硝子工室がものづくりを請け負う「試作ソリューション 硝子工作部門」は日本軽金属のWebサイト「試作ドットコム」で依頼可能だ。

 

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