2019/11/28
「金属箔」とは、金属の展延性を利用してごく薄く打ち延ばしたもので、古くは金箔・銀箔・錫箔、現在ではプラチナ箔、アルミニウム箔(アルミ箔)などが良く知られています。その歴史は非常に古く、たとえば、エジプト南部ルクソールの「王家の谷」で発見された、古代エジプト第18王朝の少年王ツタンカーメン(紀元前1370年頃~紀元前1352年。在位は紀元前1361~紀元前1352年) のマスクやひつぎには、厚さ1 マイクロメートル(1000分の1ミリ)の金箔が施されていました。またピラミッド内部の壁画には箔打ち職人の姿が記されています。なお、ルクソールからは、第18王朝時代のものと思われる、王家に仕えたアメンエムハトという名の金細工職人の墓も見つかっていることから、金を扱う職人はそれなりの地位にあったと考えられます。
紀元前3000年頃、シュメール人によって成立した古代メソポタミア(現・イラク)でも、ウル王朝の時代(紀元前3000~2000年)から、金が使われていたと推測されています。それを裏付けるように「ウルの王墓」からは、打ち出しや彫金といった金属加工技術を用いた金細工が出土。時代は下りますが、アフガニスタンにある世界遺産の「バーミヤン遺跡(5〜6世紀頃、バーミヤン渓谷に数多くの石窟が設けられた仏教遺跡)」には、錫を主成分とする金属箔で描かれた、唐草文に絡んだ人の顔と猿が向かい合う絵が残っています。
日本で金箔や銀箔といった金属箔が作られ始めた時期は、はっきりとはわかっていません。ただ、飛鳥時代(507年(継体1年)~710年(和銅3年))以前より装飾や伝統工芸で使用されていたようです。奈良時代(和銅3年 (710年) ~延暦13年 (794年) )になると、宮中の器物・造営、殿舎、各種儀式の装飾を司る「内匠寮(神亀5年(728年)設立)」が置かれ、織手や画師、細工、木工、鋳工ほか、様々な職工が属していました。その中には金銀工、銅鉄工など金属に関わる職人の名が見え、また内匠寮では「白鑞」「銅」「臈蜜」を扱っていたこともわかっています。そのため、白鑞(錫箔)を打つ工人がいたこともうかがえます。
金箔や銀箔が、あらゆる場面で用いられていたことは、数多くの文化遺産の中に見ることができます。古い例としては「高松塚古墳(奈良県明日香村にある、700年(飛鳥時代)頃の円墳。日本で初めて発見された極彩色壁画のある古墳)」の石室壁画、天平勝宝4年(752年)に建立された「東大寺大仏殿」をはじめとする、飛鳥・天平時代の寺社建築や仏像彫刻、平安時代は平泉の「中尊寺金色堂」、室町時代の北山文化を代表する「金閣寺」なども代表的なものといえるでしょう。その後も、金箔を中心にした金属箔は、安土桃山時代の豪華絢爛な屏風や襖絵、江戸時代の「日光東照宮」などに使われ、その芸術性を高めると共に、多くが木を材料にしている日本の文化遺産の耐久性を向上する役目も果たしてきたのです。
日本が世界に誇る金属箔といえば、伝統工芸品として知られる「金沢箔」でしょう。金沢箔とは、純金に微量の銀と銅を合金したものを10000分の1~2mm(10円硬貨大の合金を、畳4~5枚の広さにする)ほどの薄さにまで打延ばしたもので、古くから装飾品や伝統工芸品などの芸術性を高める材料として用いられています。金沢における箔打ちが、いつ頃から始まったのかは定かではありません。ただ、文禄2年(1593年)、加賀藩の初代藩主・前田利家が、豊臣秀吉の朝鮮出兵に際して滞在していた肥前名護屋(現在の佐賀県)の陣中より、国元へ金箔・銀箔を打つように命じていることから、少なくとも16世紀末には行われていたことは明らかだといえます。
金沢箔を代表する金箔作りには以下のような製法(工法)があります。
〇金沢伝統箔(縁付金箔):400年以上の歴史を持つ、金沢の伝統箔。箔打紙(箔打ち専用に加工した手漉和紙)に金を挟んで打ち延ばし、金箔を製造します。正方形に仕上げた箔を箔合紙に重ねた時、箔合紙の寸法が金箔より一回り大きいことから、箔と、その製法は「縁付」と呼ばれています。神社仏閣の建造物をはじめ、織物の金糸、漆器の沈金、蒔絵、仏壇仏具、陶磁器の絵付ほか、多くの美術工芸品に欠かせない資材です。また、近年は食品や化粧品など、幅広い分野でも活用されています。
縁付金箔は、大きく分けて「澄(ずみ)工程」「箔工程」「紙仕込み工程」という工程を経て完成します。
〇断切箔:昭和40年(1965年)以降、用いられている近代的で効率的な手法。パルプを原料としたグラシン紙(パルプが原料の光沢をつけて透明に仕上げた薄紙)の表面に、カーボン粉末を混ぜた溶液を塗布し、乾燥したものを打ち紙とする。そのため、大量生産が可能である。
なお、昭和52年(1977年)、縁付金箔は国の伝統的工芸品産業、用具材料部門において、初の通商産業大臣の指定を受けました。また、平成26年(2014年)には「国選定保存技術」に選定されています。
現在、世界中で最も多く使われている金属箔といえば、やはり「アルミ箔」です。アルミ箔はリチウムイオン電池、アルミ電解コンデンサなどの電子部品から、食料品(製菓、酪農用など)、日用品(家庭用ホイル、うどん容器)、医薬品などの包装資材といった製品まで、用途は多岐にわたっています。
アルミ箔の原料となるアルミニウムは、銀白色の軟らかく軽い金属。展延性に富み、熱伝導・電伝導性に優れ、日用品や建築材、電線、軽合金材料ほか、幅広い用途に使用されています。アルミ箔は、板圧延で製造された板(巻取品)を、圧延を繰り返して作ります。特に薄いものは、2枚重ねて(ダブリング)圧延を行っています(工程例:溶解→鋳造→スラブ→灼熱→熱間圧延→冷間圧延→焼鈍→箔圧延→ダブリング→セパレイティング→スリッティング→焼鈍)。
アルミ箔の始まりは、19世紀末から20世紀初頭。ヨーロッパでアルミ製錬が行われるようになると、手打ちでアルミ箔作りをするようになりました。その頃は、今のシート状ではなく、片(フレーク)状のものだったそうです。アルミ箔が、現在のように工業生産されるようになったのは1911年のこと。ドイツのラウバー博士が、圧延法によるアルミ箔作りを成功させたのが最初といわれています。ちなみに、それ以前は、食品の包装にはスズ箔が使用されていました。そのため、食品にスズの味が残ったといいます。アルミ箔の誕生で、チョコレートやキャンディが美味しく食べられるようになったのは、言うまでもありません。
日本でも、明治の中ごろには「錫箔」が使われており、両切りたばこは、京都で生産された手打ちの錫箔で包装されていました。本格的なアルミ箔の工業生産は、昭和5年(1930年)、ドイツから輸入した圧延、洗浄、裁断などアルミ箔の製造設備を用いて、機械圧延による製造が始まったのです。日本でのアルミ箔は、欧米同様、チョコレートなどの菓子やたばこの包装に使われました。
アルミ箔は、いろいろ優れた特徴のある金属箔です。主な特性は下記の通りです。
多種多様な特製や性質を持つアルミ箔の可能性は、さらに広がっていくことでしょう。
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