軽量化に欠かせないアルミニウム 100パーセントアルミボディーのスポーツカーも

2020/06/11

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一般社団法人・日本アルミニウム協会によると、2018年度のアルミの用途別需要のトップ3は順に、輸送(41.6パーセント)、建設(11.7パーセント)、食料品(10.0パーセント)でした。

 

輸送の内訳の数字はわからないのですが、これに含まれるのは自動車・鉄道車両・航空機などです。ほかのふたつとの生産量の違いを考えると、「日本国内でのアルミの最大の使い道は自動車」と考えていいのではないでしょうか。特に軽量化をするためには欠かせない素材で、今後ますます必要になると考えられています。

アルミニウムで自動車が軽量化できるわけ

同じ体積あたりでは、アルミニウムの重量のは鉄や銅の約3分の1です。ただし、軟らかい上に引っ張り強度も低く、もし単純な形状で鉄や銅と置き換えたならば、2〜4倍程度の厚さ・太さにしなければいけません。ほとんど、差し引きゼロと考えていいでしょう。

 

それでも軽量化できるのは、非常に加工しやすく、同じところに使う部材でもより強度の高い形にしてから使うことができるからです。その加工し安さには次のような理由があります。

 

アルミニウムの比重と強度

溶ける温度、つまり融点は鉄が1,540℃、銅が1,085℃であるのに対し、アルミニウムは660℃です。それだけ簡単に溶けるので、鋳型に流し込むにも鉄などほどには熱を加える必要がありません。

 

ちなみに溶かした材料を金型に流し込むのが鋳造、さらにその際に圧力を加えるのがダイカストといいます。アルミは特にダイカストに向いた金属です。

塑性加工しやすい

曲げたり引き延ばしたりしても、元に戻らない性質を利用しての加工を「塑性加工」といいます。これも、軟らかいアルミならば容易です。もちろん、塊から必要な形へと削り出すのも同様です。そのうえ、後から熱処理で硬くすることもできるので、いっそう都合がいい性質といえるでしょう。

合金で性質を変えることができる

さらには、マンガン、マグネシウム、ケイ素などと合わせて合金化して強度や耐腐食性を増すことも可能です。

 

たとえば、特別な強度の要らない1年玉はほかの金属とは混ぜていません。それに対し、強度が高く飛行機部品の素材としてよく知られるジュラルミンの場合は、主に銅が混ぜられています。錆(さ)びないようにする必要のあるジュース缶の場合はマンガンです。

 

アルミニウムを自動車に使うときの課題

ただし、苦手な加工もあります。

 

薄い板状の素材に圧力を掛けて成型する「プレス加工」では、割れたりシワができたりします。「伸びがよくない」と言い換えてもいいでしょう。自動車にはそのプレス加工した部品も大量に必要です。また、塗料を定着させるにも、その塗料を施す前に特別な処理が必要なので、外装にも安易には使えませんでした。

 

また、鉄を中心とした鋼材に比べコストも数倍になります。これらいくつもの理由からで、アルミが多用されるのは、高級車に限られていました。

どんどん進む自動車のアルミニウム化

自動車は軽量化することで、加速性能がよくなるだけではなく、燃費もよくなります。これまでの歴史を見ると、「オイルショック」(1973年)などによるガソリン価格の高騰などが軽量化へのきっかけとなり、アルミニウム化も進みました。今後は、「燃費をよくすることで排ガスも減る」といった環境への配慮からも軽量化の必要性が叫ばれています。

アルミニウム化が必要になるわけ

アルミは古くから自動車部品に使われてきましたが、ごく一部でした。野村総合研究所の資料ではアルミを中心とした非鉄金属は1992(平成4)年でも重量比で約8パーセントでしかありません。それが2015(平成27)年でも約8パーセントと横ばいです。

 

実はこの間、日本の乗用車の平均重量は約1,100キロだったのが、約1,400キロと右肩上がりで増しています。装備が充実するとともに完全基準も強化されてきたことの反映です。

 

ここまでは燃費効率の改善などで対応してきました。しかし、これからは電気自動車(EV)の時代が来るとも予想されています。バッテリーなどの搭載でさらに重量が増えることは避けられそうもありません。それを見越してのこともあって、ここ数年、ガソリン車でも軽量化が急がれています。同じ野村総研は、2025年には非鉄金属の割合は13パーセントになると予想しています。

アルミニウムは自動車のここに使われている

最も早くからアルミ化されたのは、シャシーやエンジン,ドライブトレインでした。これらは鋳造やダイカストで作られてきました。

 

また、エンジンやエアコンに使われる熱交換器類もアルミの得意とするところで、採用が進んでいます。熱伝導性のよさ(冷却能力の高さ)とコストの安さが理由です。

 

半面、フード(ボンネット)、ドア、ルーフへの採用やや後回しになってきました。塗装のために別処理が必要なことなどがハードルになっていたようです。ただ、これも技術改革が進んでいます。

アルミ化された車種

この10年20年の間、アルミ化は「緩やかな右肩上がり」といった進み方でした。しかし、車種ごとに見るとかなり意欲的なものも出ています。

伝説のオールアルミ・スポーツカーNSX

「世界初のオールアルミモノコックボディー車」として1990(平成2)年に登場したのが「ホンダNSX」(初代)です。

 

「モノコックボディー」とは、従来は別々に作って後から合体させていたフレーム(車枠)とボディーを、最初から一体化して作った構造をいいます。できあがったものは箱状になり、これをすべてアルミにしたものはそれまでにはありませんでした。

 

また、ほかのパーツもアルミにした「オールアルミボディー」でもありました。エンジンを車体中央に置くミッドシップを採用するなどの運動性能もさることながら、高級感もありました。2006年の販売終了まで、「日本唯一のスーパーカー」との呼び方もされました。

 

アルミを徹底的に採用したことで、削減できた重量は約200キログラムといいます。ライバルとしていたイタリアのフェラーリ348が1,465キログラムあったのに対し、NSXはマニュアル車で1,350キログラムでした。

軽さが命のマツダ・ロードスター

「ライトウエイトスポーツカー」として、30年以上のロングセラーになっているのが、マツダの「ロードスター」です。「ライトウエイトスポーツカー」とはサイズをコンパクトにし、車重も軽くすることで、比較的排気量の少ないエンジンでもスポーツカーとして楽しめるようにしたものをいいます。

 

実際、初代のロードスターでみると、エンジンは1,600ccと1,800ccのふたつで、車重は940〜1,020キログラムでした。

 

2015年に販売開始になった4代目はエンジンは1,500ccで、車重は990〜1,060キログラムとやや増えました。しかし、ほかの車種での増え方と比べると、かなり押さえ込んでいるといえるでしょう。

 

やはり、アルミニウムの比重を増やしており、ボディーシェル領域(構造部分)だけでも鉄からアルミに置き換えたことで、12.1キログラムの軽量化に成功しています。

これからは鉄・アルミ・新素材の三つどもえ?

実は10年20年前の予想の多くでは、今ごろはもっとアルミの比率が増えているはずでした。しかし、鉄なども強度を上げることで使う量を減らすなど、軽量化への努力が続けられてきました。

 

また、強化プラスチックやCFRP(炭素繊維複合材料)といった新しい素材が採用され始め、鉄やアルミなどと置き換えられる動きも始まっています。たとえば、2017年に2代目が登場したホンダNSXでも外装の一部に炭素繊維(カーボンファイバー)が採用されました。ただ、これらにはコストなどの問題があり、この最高級車でさえ、ほんのわずかのパーツに留まっています。

 

おそらくはこれからも、鉄・アルミ・新素材のそれぞれが強度を上げ、コストは下げ、自動車の軽量化に貢献していくのではないでしょうか。

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