アルミニウムを鉄よりも硬くすることができるアルマイト加工とは

2020/06/16

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そのままのアルミニウムは比較的腐食しやすく、食品程度の酸でも傷んでしまいます。弁当箱にしたときには、中でも梅干しは天敵でした。しばしば、ふたなどに穴が開いたといいます。

 

これを一気に解決したのが、昭和の初めごろに実用化されたアルマイト加工でした。今では、お弁当箱はもちろんのこと、ヤカンやアルミサッシなど多くのアルミ製品にはこのアルマイト加工が施されています。

 

アルマイトとは

アルミニウムを硬くしたり、腐食しにくくする方法は主にふたつあります。ひとつは、銅やマンガンなどのほかの物質を混ぜる合金です。もうひとつが、アルミの表面に酸化皮膜を作るアルマイト加工です。

 

日本で考案されたアルマイト加工

酸化被膜とは、その金属と酸素が化学反応を起こし、薄く表面を覆ったものをいいます。鉄に発生する赤錆(あかさび)や銅の緑青も酸化被膜の一種ともいえなくもありません。赤錆などは元の金属を腐食させますが、金属の種類によってはより強固になります。

 

アルミは比較的化学反応しやすく、空気中に放置しているだけでも酸化被膜ができることは古くから知られていました。半官半民の科学研究所である「理化学研究所(理研)」では、このアルミにできる酸化皮膜を使って、絶縁体を作る研究をしていました。「電気を通さない物質を作る」ということです。

 

その研究に用いた定規などに皮膜を作ると、変色したり擦れて角がなくなったりすることが少なくなっていることに、たまたま気が付きました。硬度が増し、腐食もしにくくなっていたのです。理化学研究所は1923(大正12)年にこのノウハウで特許を申請し、その8年後には「アルマイトAlmite」と名付けて商標登録もしました。その翌年以降、弁当箱、鍋(なべ)などのアルマイト製品が次々と発売されるようになります。

 

アルマイト加工の作用と手順

自然の状態でできる酸化被膜は1〜2nm(ナノメートル)程度です。「100万分の1ミリメートル」なので、ほとんどないに等しいと考えていいでしょう。アルマイト加工では、一般の用途でも10µm(マイクロメートル)前後、工業用などならば40〜70µm程度が多いもののそれ以上も可能です。1,000nmが1µmなので、「最低でも自然にできるものの500〜1,000倍の厚み」と考えていいでしょう。

 

電解液の成分とアルミが化学反応したものがアルマイト

まず最初にアルミ製品を希硫酸・シュウ酸といった電解液につけます。そのうえで、アルミニウム側をプラス、電解液側の電極をマイナスにして電気を通します。ここから電気分解が進み、アルミ製品の表面に酸化物が付くようになります。この酸化物こそをアルマイトと考えていいでしょう。

 

また、この酸化物の層が厚くなるほど、焦げ茶色に近づきます。ヤカンのあの見慣れた薄茶色も、このアルマイトの層の色そのものと考えてほぼ間違いありません。また、アルマイトの層の表面にはミクロの単位の穴が無数にできています。ここに顔料が定着するので、色を付けることも簡単になります。

 

どのくらいの厚みや硬さにするかは用途次第です。一般的なアルマイト加工でも、もとのアルミの5倍前後の硬さにすることができます。鉄よりも硬くしているものも珍しくありません。その場合は特に「硬質アルマイト」と呼ばれます。

 

アルマイト加工されている製品

一般的なアルマイト加工がされているのは、ヤカンや鍋などの台所用品や、アルミサッシなどの建材がそのの代表でしょう。また、インテリアや家電などでもふんだんに使われています。

 

硬質アルマイトの場合は、自動車や航空機などの機械類です。アルミ合金に対してもアルマイト加工はでき、さらに強度を増したり腐食性をカバーしたりするために施されています。また、絶縁性を持たせるためのものは、工業用ならではの使い方でしょう。

 

アルマイトとめっきの違い

似たような加工に、めっきがあります。めっきの場合は、製品側をマイナスにします。このめっきの場合、元の金属はそのまま残りその表面に新しく層ができます。一方、アルマイトの場合、アルミ自身も化学的に反応し、できあがった層はもとの位置よりも食い込んでいます。この違いから、層がはがれにくいのはアルマイト加工の方です。

 

アルマイト加工製品のお手入れ方法

アルマイト加工された製品は、台所道具や建材など身近なところにたくさんあります。いくら、腐食しにくいよう工夫されているとはいえ、お手入れも必要です。また、間違った手入れの仕方で寿命を縮めてしまうことも珍しくありません。注意書きをよく呼んで扱うようにしましょう。

 

特に間違いが多いのが、鍋や弁当箱などの洗い方です。金属たわしなどは厳禁です。せっかくのアルマイト加工がはがれてしまいます。また、アルミサッシなどの建材がひどく汚れているときは、サッシなど建材専用のものを選びましょう。トイレ・浴室用などを使うと、洗浄力が強すぎたり酸性・アルカリ性が影響したりしてアルマイト加工にダメージを与えてしまう可能性があります。

 

参考文献

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