太古の歯磨き粉は「尿」だった? 歯磨きと歯ブラシの歴史

2019/06/10

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クレオパトラも「歯磨き粉」を使っていた?

普段、何気なく使っている歯磨き粉ですが、その歴史は古く、約3500年前まで遡ります。紀元前1500年頃、パピルスに記された古代エジプトの医学書には、世界最古とされる歯磨き粉のことが記されています。それは「ビンロウ」と呼ばれる木の実に加え、「ハチミツ」「燧石(すいせき。火打ち石のこと)」「緑青」「乳香」「ナイル川沿岸の土」を混ぜ合わせたもの。当時のエジプト人は、これを歯磨き粉として歯を磨いていたと考えられています。エジプトの歯磨き粉は医学書に書かれていたので、発明したのは医師かもしれません。なお、時代が下って4世紀ごろには、食塩、黒コショウ、ミントの葉、アイリスの花を混ぜたものを、歯みがきのために使用していたようです。

 

現代人には想像もつかない古代エジプトの歯磨き粉ですが、「ビンロウ」は虫下しの薬、漢方などにも用いられています。また現在ではハチミツに虫歯予防の効果があることが知られており、塩は古くから殺菌、消毒に使われていることから、歯磨き粉として十分に効能が期待できたといえます。

 

紀元前500年頃のインドでは、最初の歯ブラシ「歯木」が使われるようになります。ただ、歯磨き粉は付けませんでした。しかし、歯木の原料である「ニーム」という木の樹液には、虫歯と歯周病を予防できる成分が含まれていることがわかっています。

 

古代ローマでは、「ポルトガル人の尿」という、とんでもない材料を歯磨き粉に使っていました。思わず絶句してしまいそうですが、現在も歯のホワイトニング剤の主成分として、「過酸化水素」または「過酸化尿素」が用いられているのです。そのため、古代ローマ人は「アンモニアが歯を白くすること」を知っていたのかもしれません。

 

江戸時代は歯の白さが「イケメンの条件」だった?

歯磨きの習慣は、仏教伝来と共に日本へ伝わりました(縄文・弥生時代に、人が歯を磨いていたという説もある)。当初は身を清める仏教儀式として僧侶の間で行われ、公家など上流階級の人に広がっていったたようです。その当時に使われていたのが、柳や竹の端を細く砕いて、房のようにした「房楊枝」。曹洞宗の開祖・道元(1200年(正治2年)~1253年(建長5年))が記した鎌倉時代の仏書「正法眼蔵」には、楊枝に関する文章が残っています。

 

庶民が歯を磨くようになったのは、江戸時代になってのことです。それ以前の歯磨きといえば、食後にお茶やお湯で口をすすぐ、指に塩をつけてこするという方法が用いられていました。日本初の歯磨き粉は、1625年(寛永2年)、江戸の商人・丁字屋喜左衛門が作って売り出した「丁字屋歯磨(または「大明香薬」)」。大陸からの渡来人(韓国人)の伝を受けて製したといい、その主な成分は、「琢砂」と呼ばれるとても目の細かい研磨剤と、「丁字」「龍脳」という漢方薬を混ぜたものでした。丁字屋歯磨の袋には「歯を白くする」「口臭を抑制する」といった効果が記されていたそうです。

 

「丁字屋歯磨」は評判になったようで、房楊枝を使って歯磨きをする庶民は、瞬く間に増えていったといいます。ちなみに、江戸時代の女性は、歯並びがよく、白い歯の男性を好んだそうです。そのため江戸の男性たちは、白く輝く歯を目指し、房楊枝を使って歯磨きに精を出していたといいます。

 

現代の歯磨き粉はドイツで生まれた

歯磨き粉はその名の通り、20世紀初頭までは粉体のものが主流でした。今のようなチューブ入りの練り歯磨きを発明したのは、ドイツ人薬剤師のオットマー・ハインジウス・フォン・マイエンブルクです。当時、人々の歯の健康状態はあまり良好ではなかったようで、彼はそれを改善するために新たな製品の開発に乗り出しました。

 

ドレスデン「ライオン薬局」の屋根裏部屋で実験を重ねたフォン・マイエンブルグは、1907年に金属製のチューブに詰めた練り歯磨き粉を完成させ、世界初の新製品として販売したのです。彼はチューブやふた、外箱を製造する工場を設立。さらに成分となるペパーミントを栽培するプランテーションも経営するなど事業を拡大し、欧州で最大の歯磨き粉メーカーとなりました。同社は東ドイツ時代には国有化されていたそうです。

 

なお、日本初のチューブ入(押出管入)ねり歯磨きが登場したのは1911年(明治44年)。小林富次郎商店(現・ライオン株式会社)の「ライオン固練りチューブ入り歯磨」です。

 

現在使われている歯磨き粉の成分

私たちは毎日、当たり前のように歯磨き粉で歯を磨いています。しかし、どんな成分が含まれていて、どのように作用しているのかを考えることはあまりないでしょう。一般的な歯磨き粉に配合されているのは、清掃剤(研磨剤)をはじめ、湿潤剤、発泡剤、粘結剤、香味剤、保存料、防腐剤、着色剤などですが、歯磨き粉の種類や製品によっても含有率は異なります。

また近年は、フッ素を始めとする薬用成分が含まれる歯磨剤も増えています。なお、歯磨き粉の主な成分と効果作用は以下の通りです。

 

薬効成分:薬効成分の個別機能により、効能効果を発揮

フッ化物、殺菌剤、抗炎症剤、酵素など

 

清掃剤(研磨剤):歯の表面を傷つけることなく、歯垢やステインなどの汚れを落とす

リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、無水ケイ酸など

 

湿潤剤:歯磨き粉に適度な湿り気と可塑性を与える

ソルビトール、グリセリンなど

 

発泡剤:口の中に歯磨き粉を拡散させ、汚れを洗浄

ラウリル硫酸ナトリウムなど

 

粘結剤:粉体と液体を結合し、保型性、適度な粘性を与える

アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カラギーナンなど

 

香味剤:爽快感と香りをつけ、歯磨き粉を使いやすくする

サッカリンナトリウム、メントール、ミント類など

 

保存料:歯磨き粉の変質を防ぐ

パラペン類、安息香酸ナトリウムなど

 

着色剤:歯磨き粉の外観を整える

法定色素など

 

歯磨き粉の中に「水酸化アルミニウム」が含まれていることで、ちょっと不安になるかもしれません。というのも、歯磨き粉は鏡や水回りの汚れ落とし、シルバーアクセサリーのお手入れなどにも効果があるため、隠れたお掃除グッズとして紹介されることがあるからです。「歯磨き粉を使うとしつこい汚れが取れるのは、金属が入っているからなのでは?」と考えてしまいそうですが、歯磨き粉の役割は歯を削ることではなく、虫歯や歯周病を防ぎ、口の中の衛生を保つこと。ですから、歯肉や口腔粘膜などに影響や問題がないものが配合されています。

 

また、清掃剤(研磨剤)に「アルミナ(酸化アルミニウム)」が入っている歯磨き粉もあります。「水酸化アルミニウム」と名前が似ていますが、前者はアルミニウムの水酸化物、アルミナはアルミニウムの酸化物や化合物で、どちらもアルミニウムの原料である、ボーキサイト(赤褐色の鉱石。水酸化アルミニウムが主成分で、酸化鉄や二酸化珪素も含まれている。鉄礬土)から生成されます。このボーキサイトを粉砕し、苛性ソーダなどで溶かしてアルミン酸ソーダを作り、更に加水分解すると水酸化アルミニウムができます。さらに水酸化アルミニウムを焼成することでアルミナが生じるのです。歯磨き粉の材料のほかに、アルミナは研磨材や耐火物、陶磁器、断熱材、ガラス、セラミックスなどの原料として、また水酸化アルミニウムは医薬品、凝集剤、難燃剤、工業薬品などに用いられています。

 

古代エジプトではハチミツやビンロウ、古代ローマは尿、今はアルミナと、時代とともに変化してきた歯磨き粉の成分。中身こそ違いますが、「歯を清潔かつ健康に保つ」という目的は変わらないといえるでしょう。

 

化成品事業にも強い「日本軽金属」

日本軽金属は2014年3月までアルミニウムの製錬を行なっていました。そのノウハウは現在でも「化成品事業」と領域を変えて日本軽金属を支えています。

日本軽金属の化成品事業では、ゴム・プラスチックの難燃化充填剤、陶磁器、耐火材、研削材等の原料として広く使用されている「アルミナ」を始め様々な化成品を製造・販売しております。

 

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