2019/06/17
買い物や通勤・通学など、ちょっとした移動に欠かせない乗り物である「自転車」の歴史は意外と浅く、実は200年ほどしか経っていません。それにもかかわらず、「いつどこで誰が発明したのか?」は曖昧のようで、定説としては1813年(1818年とも)、ドイツの発明家カール・フォン・ドライス男爵が作った「ドライジーネ」という足蹴り式二輪車が自転車の原型とされています。ドライジーネは前輪の向きを変えるハンドルが付いた木製の二輪車で、ペダルもなければブレーキもない単純な構造でしたが、記録によると37kmを2時間30分で走ったといいます。これは時速15km/hに相当し、当時ヨーロッパの主要交通・運輸手段であった馬車よりも速かったそうです。
ちなみにドライジーネの原点は、ヨーロッパの貴族が遊んだという車輪のついた木馬のような乗り物だという説もあります。これは19世紀に入るとイギリスでは「ホビーホース」、フランスでは「ベロシフェール」と呼ばれて流行していますから、足蹴り式二輪車のヒントになったことは十分に考えられそうです。
足蹴り式二輪車にペダルが付いたのは、1839年、スコットランドで鍛冶屋を営んでいたカークパトリック・マクミランが作った「ベロシペード」。これは蒸気機関車と同じく、梃の原理の駆動回転を利用し、ペダルを踏み込み後輪を回す自転車だと伝えらえてきました。しかし、それを証明する現物や資料が残っていないため、近年の研究では実在しなかったとされています。
ただし、ヨーロッパでは自転車の改良・開発がさかんに行われており、そんな中、ドライジーネを大きな進化させる自転車(二輪車)が登場したのは、1863年のこと。フランスのピエール・ラルマンが、前輪にペダルとクランクを取り付けた(子どもが乗る三輪車と同じ駆動方式の)二輪車を開発します。ラルマンの発案を商品化したのが鍛冶屋のピエール・ミショー親子で、彼らは工場を設立して世界初の自転車量産に成功。1867年には約1000台を生産したそうです。ハンドルやブレーキまで備えたミショー型自転車でしたが、揺れがひどく、乗り心地が悪いため、イギリスでは「ボーンシェイカー(骨ゆすり)」と呼ばれました。
ミショー型自転車は、ペダルを1回転させると前車輪が1回転分進みます。そのため、もっと速く走ろうとすると、前輪の直径を大きくする必要がありました。そこで登場したのが、1870年頃、イギリスで「自転車の父」と呼ばれるジェームス・スターレーが設計した「オーディナリー型自転車(ペニー・ファージング型とも。日本ではダルマ自転車、一輪半)」です。目を引くのは前輪の大きさで、中には直径が1.5mを超えるものまであったといいます。ただ、この自転車は「重心が極端に高く安定感に乏しい」「転倒すれば高所から落ちる危険性がある」ため、乗りこなすのに大変苦労したそうです。なお、それまでの自転車の素材には木や鉄が混在していましたが、スターレーのオーディナリー型自転車の場合、すべての部品に鉄やゴムが使われています。
ヨーロッパ各地で自転車の開発が行われ、普及が進む中、1879年、イギリスのハリー・ジョン・ローソンという人物が、前後輪の間にペダルを置き、後輪に付けたギアとチェーンで結ぶ駆動方式を発明。この仕組み=後輪駆動を搭載した自転車「ローソン号」を世に送り出します。1885年には、ジェームス・スタンレーの甥、ジョン・ケンブ・スタンレーが後輪駆動方式を利用し、前後の車輪を同サイズにした「ローバー型自転車」を発売。これは「セーフティバイシクル」とも呼ばれ、今日まで続く自転車の原型だとされています。また安全性、速度、走行バランスなどの点で「オーディナリー」を上回った「セーフティ」は、やがて自転車の主流となっていきました。
自転車は、その後、自動車や航空機の発明・開発の基盤となり、現代における航空宇宙科学の礎にもつながっていきます。というのも、世界初の動力飛行を成功させたライト兄弟の職業は自転車店。彼らは自転車の技術を利用して、飛行機開発を成功させたのです。
日本に自転車が持ち込まれたのは幕末期で、ミショー型自転車ではと考えられていますが、それ以前にも自転車らしき乗り物を作った人物がいたようです。それは彦根藩士の平石久平次時光(1696年~1771年)で、ある日彼は、武州(埼玉県)の農民・庄田門弥が足踏み式の自走四輪車「陸船車(千里車とも)」と呼ばれる乗り物を作り、使用しているという話を耳にします。もともと探求心旺盛、天文学などでも業績を上げていた平石は独自に設計を行い、彼の著書『新製陸舟奔車之記』によると、1732年(享保17年)、「新製陸舟車」という、ペダルをこいで進む三輪の乗り物を走らせたと書かれています。ただ残念なことに、新製陸舟車は量産されなかったため、広く普及することはありませんでした。また、残っているのはわずかな記録(平石の遺品や資料の多くは関東大震災で焼失)のみということで、近年まで平石の功績は歴史に埋もれていたのです。ミショーより先に新製陸舟車を作った平石は、世界初のペダル式自走車発明家といってもよいのではないでしょうか。
明治に入ると、日本でも自転車製作が行われるようになります。万年時計やからくり人形からアームストロング砲まで、さまざまな発明・設計・製作で知られる「からくり儀右衛門」こと田中久重(東芝創業者)も、1868年(明治元年)頃、自転車を製造したとの記述が残っています(ただし、現物や本人による記録が伝わっていないため、真偽は不明)。また、1870年(明治3年)、竹内寅次郎という彫刻職人が、東京府に「自転車」と名付けた三輪の車の製造・販売許可を求めたという記録があり、1876年(明治9年)には、福島県に住む鈴木三元が「三元車」という前二輪の三輪自転車を開発(この自転車は1881年(明治14年)、第2回内国勧業博覧会に出品)。その後も国産自転車の製造は盛んに行われ、1890年(明治23年)、宮田製銃所(現宮田工業)が国産第1号となる自転車を製作しました。なお、初期の国産自転車の製造には、車大工や鉄砲鍛冶の技術が活かされていたそうです。
初期の自転車は、車輪を含めほとんどの部分が木で作られていました。その後、さまざまな素材が使われるようになり、ミショー型自転車には鋳鉄(2%以上の炭素を含む鉄合金)製のフレームと木製の車輪が採用されています(ただし、乗り心地はよくなかったとされます)。大きな車輪が特徴的な「オーディナリー」になると、鉄線を張ったホイールが登場するなど、車体や車輪は鉄に代わり、ゴムタイヤも使われるようになります。さすがに前輪の直径が1・5m以上の車輪を、木製で作るのは難しかったのでしょう。また、1888年には、アイルランドのジョン・ボイド・ダンロップが、息子の三輪車の乗り心地を良くするために「空気入りタイヤ」を発明。これによっての乗り心地とスピードが格段に向上し、自転車は急速に進歩しました。なお、ダンロップは獣医でしたが、牛を治療する時、腸にガスが充満している様子を見たことからヒントを得たそうです。
現在、自転車のメインとなるフレーム素材は、カーボン・アルミニウム・クロモリが主流となっています。他にもチタンをはじめ、スチール、ステンレス・竹・木などが使われますが、一般的なのは前述の3種類です。素材は自転車を選ぶ際の重要なファクターで、それぞれにメリットやデメリットがあります。主な素材については以下の通りです。
☆スチール:重くて錆びやすいのがデメリットだが、自転車自体の価格は手頃なケースが多い。
☆クロモリ:「クロモリ」とは「クロムモリブデン鋼」の略で、鉄に極僅かのクロムやモリブデンなどを添加した低合金鋼の一種。バネ性に優れていて剛性が高く、機械構造、自動車、航空機部品などに適している。自転車のフレームに使うパイプとしては一番歴史が長く、衝撃吸収性が高く、しなやかでバネ性に優れているのが特徴。後述のアルミより重い。
☆アルミニウム:ボーキサイトからアルミナを抽出し、アルミナを電気分解した生成物。スチールやクロモリより軽量で剛性もあり、錆びにくいことから、スポーツタイプを中心に自転車の素材として多く使われている。またコスト面ではカーボンより安価。カーボンが普及するまでは、自転車のフレームのメイン素材だった。衝撃吸収性が低いのがデメリット。
☆カーボン:カーボンは炭素繊維と強化プラスチックを熱処理し、炭化・ガラス化(グラファイト化)させた非金属素材。軽量でしなやか、さらに強度があるため、自転車に用いると非常に軽い車体が構築可能で競技用自転車の世界ではスタンダードな素材となった。ただし、「高価である」「小さな傷から破損しやすい」というデメリットがある。
☆ステンレス:鉄にクロムとニッケルを加えた合金。一般的には錆びないとされており、いわゆる「ママチャリ」のハンドルやリムに使われることが多い。多用すると、車体が重くなるのがデメリット。
☆チタン:錆び難く、軽量で剛性が高い優れた素材だが、大気中で溶接が出来ないため、加工に手間がかかり価格が高い点がデメリット。ただし、耐久性があるので、車体の寿命が長く、10年近く乗ることも可能。
自転車のフレームの主役は、スチールやクロモリなどの「鉄」から、今はアルミニウムやカーボンといった素材にかわっています。アルミニウムとカーボンを比較すると、アルミニウムは振動吸収性、強度が低いとはいえ、価格の安さから、コストパフォーマンスの高い自転車を作ることができます。
近年は、軽量で強度が高く、振動吸収性を有するカーボンの人気がアルミニウムを上回っています。カーボンを採用した自転車は、かつて30万円前後とかなり高価でしたが、最近は15万円ほどで手に入る車種もあるそうです。
このように自転車という製品は、さまざまな人の創意工夫を積み重ね、進化を遂げてきた乗り物だといえます。素材や性能を含め、今後もさらに開発が進むことでしょう。
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