ミュージシャンの表現を支える発明「エレキギター」の歴史

2020/01/31

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エレキギターのブームは1960年代から

エレキギター(エレクトリックギターなどとも)は、ポップスやロック、ジャズ、フュージョンなど、様々な音楽に欠かせない楽器です。日本で最初にエレキギターのブームが起こったのはベンチャーズやビートルズが来日した1960年代のこと。彼らのプレイする姿に魅了された多くの若者が、楽器店に駆け込んで、エレキギターを買い求めたといいます。また、同時期に国内でもジャッキー吉川とブルーコメッツをはじめ、ザ・タイガース、ザ・テンプターズ、ザ・スパイダースなどのグループ・サウンズが台頭。寺内タケシや加山雄三も、エレキ・ブームを牽引しました。1970年代には「三大ギタリスト」と称されるジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトンらが人気を博し、さらにローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、KISS、クイーンといった海外バンドの活躍も、日本人のエレキギター熱に拍車をかけたのです。

ブームに伴い、学園祭やイベントに出演するアマチュア・バンドも増え、特に若い女性から注目を集めることも多かったといいます。アリスのリーダーでソロ・アーティスト、「昴」や「いい日旅立ち」のヒットで知られる谷村新司氏も、実は「女の子にモテたくてギターを始めた」のだそうです。

1980年後半に起きたバンドブームの頃は、「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」に代表されるオーディション番組が大人気。ここからからメジャーデビューを果たすグループも少なくありませんでした。この頃から、BOØWYをやX JAPANを筆頭にGLAY、L'Arc〜en〜Ciel、LUNA SEAといったヴィジュアル系ロックバンド、B'zやMr.Childrenなど、現在も活躍しているバンドが数多く多数登場。それに伴い、彼らに憧れてアマチュア・バンドを組む人も増えていきましたが、2000年代に入ると、バンドブームは低迷期を迎えます。

しかし、近年は、軽音楽部で奮闘する女子高生を描いた漫画・アニメ『けいおん!』のヒットなどがきっかけで、若い世代を中心にエレキギター熱が再燃しているそうです。そこで今回は、女性プレイヤーも増えているという、エレキギターについて調べてみました。

最古の楽器は40000年前のフルート?

人類における音楽の起源は、今から4万年ほど前、石器時代にまで遡ります。最初の頃は、手を打ったり、木の棒でものを叩くことで音を出していたと考えられています。3万5千年前の楽器と思われるマンモスの牙と骨の出土品がありますが、現在のように「音楽を楽しむ」というより、「音で猛獣を追い払う」「通信手段として使う」「他者とのコミュニケーションをはかる」といった目的で使われていたようです。また、ドイツにある約4万年前、石器時代の遺跡からは、世界最古の楽器といわれるマンモスの牙やとシロエリハゲワシの翼の骨で作られた「フルート」が出土しています。

古代文明(紀元前4000年~紀元前3000年頃)の遺跡にも、楽器を演奏している様子を描いたものが多く残されており、エジプトの壁画や石の彫刻には、ハープやタンバーといった弦楽器、フルート、打楽器などを弾く人たちを見ることができます。メソポタミアにおいても、紀元前3000年頃には楽器が使われていたようで、ウルの王墓(紀元前2600年)からハープとリラ(竪琴のような楽器)が発見されています。このことから、古代の人びとは楽曲を作り、それを演奏するための様々な楽器を持っていたことがわかります。

ギターの先祖に名乗りをあげる多くの楽器

ギターは古代文明の遺跡に胴体、棹を持つ弦楽器が見られることから、歴史を持った楽器だといわれています。ただ、起源には様々な説があり、次のような古代の楽器がルーツではないかと考えられているようです。

・古代エジプトの「ネッフェル(三弦リュート)」「オード」「タンバー」など
・古代ギリシャの「キタラ」
・古代メソポタミアの「ロング・ネック・リュート」

他にも「タンバー」「リラ」「フォルミンクス」「パンドゥーラ(リュートの祖先ともいわれる)」などの弦楽器が作られていましたが、形状や名称などの起源を調べても、これという決め手はないといいます。

ただ、これらの楽器がヨーロッパへ輸入されたことがきっかけとなり、ギターの前身となる弦楽器が生まれたのは確かのようです。ギリシアの「キタラ」は中世にかけて「ギターラ」と呼ばれるようになり、ペルシャ、アラビアを経てスペインに輸入され、16世紀頃、平たい胴を持った「ビウエラ」になったといわれています。一方、8世紀頃、アラビアの商人により、ヨーロッパへ持ち込まれた「リュート」も独自の進化を遂げ、16世紀頃には最もポピュラーな楽器となりました。

リュートやビウエラといった「複弦楽器(今のギターのような単弦ではなく、2本の弦を1コースとする)」は、 当時の宮廷音楽とともに栄えます。16~17世紀(ルネサンス初期~バロック期)にはヨーロッパ全土で愛用され「楽器の王」とも呼ばれていたそうです。当時の詩人をはじめ、マルチン・ルター、ヘンリー8世、エリザベス女王1世、ルイ13世といった王族や知識人たちも、リュートを習っていたといいます。

隆盛を極めたリュートですが、鍵盤楽器やバイオリンといった楽器の発展により、次第に衰退。スペインのビウエラは弦の数が少なくなり、フラメンコギターへと発展していきます。18世紀初頭になると、ギターは宮廷音楽を奏でるのではなく、庶民の楽器として広まっていきます。それと共に複弦から単弦へと変わり、18世紀の終わりには現在と同じ6単弦となりました。
この頃のギターは「19世紀ギター」と呼ばれ、多くの演奏者に愛用されたそうです。

ただ、当時のギターは小ぶりな造りで、小さな音しか出ない楽器でした。狭い場所でフラメンコ舞踊のために使われていたフラメンコギターを、大きな会場でプレイできる楽器に改良したのが、スペインで生まれたギター製作家のアントニオ・デ・トーレス(1817~1885年)です。ボディの長さを伸ばし、ボディの幅も広く浅くする、フレットを増やすなどの工夫を施したことで、音も大きく音域も広がったトーレスのギターは、後にクラシック・ギターの基礎となりました。

ギター用ピックアップの登場

1920年代のアメリカでは、ダンスホールなどで演奏するジャズやダンスのギタリストたちが、よく響き、大きな音の出るギターを求めていました。それに応える形で生まれたのが、胴の中に金属製反響装置をとりつけたギターです。また、ギタリストの中には、マイクロホンや蓄音機のカートリッジをギターに付けるなど、1920年代から1930年代初頭にかけて、数多くの人々が音量を増幅するための工夫や製作を行っていました。その中で、電気的に音を増幅する最初のギターを作ったのが、ハワイアン・ミュージックでミュージシャン経験のあった、アメリカの発明家ジョージ・デルメティア・ビーチャム(1899年~1941年)です。彼も聴衆の前でプレイする時、アコースティックギターの音量では物足りないと感じており、1931年、弦の振動を電気信号に変換する装置(ピックアップ)を取り付け、それをアンプで増幅するギターを発明しました。ビーチャムは、仕事を通じて知り合った技術者アドルフ・リッケンバッカー(1887年~1976年)と提携。1932年、ピックアップ付のアルミニウム製ギター「フライング・パン」の製造・生産を開始しました。ただし、この時のギターは、今のようなエレキギターではなく、ハワイアンミュージックで使われるスチールギターでした。1937年、ビーチャムとリッケンバッカーは、エレキギターの合衆国特許を取得します。

一方、ジャズ・ギターの開祖と称されるギタリスト、チャーリー・クリスチャン(1916~1942年)が、1936年頃、ギターソロを弾くことを目的に、アコースティックギターのボディにピックアップを付けての演奏を始めるなど、この時期を境に、様々なギターが開発されるようになります。現在の主流はソリッド・ボディ(音響用の空洞を持たないタイプ)のエレキギターですが、1949年にフェンダー社(1946年創業の米楽器メーカー)から「エスクワイヤー」、1954年に「ストラトキャスター」が、1952年にはギブソン社(米楽器メーカー)から「レスポールモデル(アメリカのギタリストであるレス・ポール(1915年~2009年)が発明)」が発売されています。

フェンダー社とギブソン社は、その後も多様なエレキギターを世に送り出し、現在も多くのミュージシャンに支持されています。リッケンバッカーも、1950年代になると多彩なギターを次々に開発。1960年代にはビートルズに愛用され、一躍世界的なメーカーとなりました。

ピックアップが変わると音も変わる?

現在演奏されているエレキギターは、基本的に木のボディの上にピックアップなどの部品が付き、音を出す鉄弦が張られた仕様になっています。そのまま弾くと小さい音しか鳴りませんが、ケーブルでアンプと繋ぐことで、大きな音量を出すことができます。

弦の振動をを弱い電気信号に変えるための機器が、ボディに埋め込まれている「ピックアップ」です。ピックアップには黒いボビンに「ホールピース」という磁石の棒を6本(6本ある弦の音を拾いやすくするため)挿し、周囲にエナメル線などを巻きつけたコイルが使われています。コイルは電話機やハンドマイクにも用いられ、コイルと磁石の力を利用すれば、電源がなくても、音声を電気に変えることが可能です。

コイルが巻かれた磁石の上で磁石に反応する金属(磁性体:磁場の中に入れたときになんらかの磁気的性質を示す物質)が動くと、電磁誘導によってコイルに電流が流れます。エレキギターでいうと鉄弦が磁性体で、弦が振動する回数で電流に変化が起こります。たとえば高音の場合、弦の振動が速くなると共に、電流の変化も速くなります。このように弦の周波数の波と電流の波が連動する性質を利用して、音を電気に変換する仕組みになっているのです。

エレキギターのピックアップには、大きく分けて、「シングルコイルピックアップ」と「ハムバッカーピックアップ」があります。

・シングルコイルピックアップ
コイルが1つのピックアップ。輪郭のはっきりした明るくシャープなサウンドが特徴。歯切れもよく、カッティングプレイに最適。構造上、ノイズを拾いやすいのが欠点。ストラトキャスタータイプ、テレキャスタータイプなど、FENDER系のギターに多く搭載されている。

・ハムバッカーピックアップ
コイルを2つにすることでパワーを増幅、ノイズを打ち消す(ハムキャンセリング)機能を持つピックアップ。高域特性はシングルより劣るものの、中低域を強調した骨太サウンドが得られる。歪みにも強く、粘りのある音でハードロック系アーティストに人気。主にレスポールタイプ、SGタイプなどギブソン系ギターが採用。

エレキギターは、そのままでプレイできますが、「エフェクター」を使い、アンプに送る途中で、音を改変することも可能。エフェクター、ギターのボリュームやトーンボタン駆使することで、ギタリストたちは独自のサウンドを創り上げています。また、ボディをアルミニウム合金の一枚板で作った「EVO」も登場し、素材の部分でもエレキギターは進化を続けているのです。

 

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