2020/02/10
かつて「雨戸」は、住宅に欠かせない建具のひとつでした。しかし、近年は、ライフスタイルの欧米化や建築法改正などにより、家の建て方や利用建材も変わっているため、昔ながらの木造の雨戸は減少。子供や若い世代だと、祖父の家や遠足で訪れた古民家、歴史的建造物で目にするくらいだといいます。雨戸のない家も当たり前で、雨戸そのものを知らない人も少なくないようです。
ところが先日の大型台風15号(2019年9月9日)、同じく19号(2019年10月12日)の上陸をきっかけに、忘れかけられていた雨戸がにわかに脚光を浴びることとなりました。というのも、観測史上最強クラスの台風15号の風速は50mを超えるもので、風によって家屋の窓ガラスが割れ、屋根や外壁が飛ばされる被害が多発。台風が直撃し、最大瞬間風速57.5 m/sを記録した千葉県では、ゴルフ場の鉄塔が倒れるなど、多くの建物が大きなダメージを受けています。
家屋の倒壊や停電などが発生し、復旧もまだ半ばの10月1日、追い打ちをかけるように発生したのが台風19号です。発生後、あっという間に猛烈な勢力に発達。その後も勢力はほとんど衰えず、本州に接近するということで、気象庁や天気予報会社、国や地方自治体では、台風15号上陸時の被害を踏まえて、「雨戸を閉めて避難すること」「養生テープ(床養生と塗装用養生に用いる保護用テープ。マスキングテープとも)や段ボールとガムテープによる窓ガラスの補強」などを呼びかけました。そのため、均一ショップやホームセンターでは、養生テープやガムテープの売り切れが続出。特に雨戸のない建物では、対応に追われたといいます。
このような背景から、このところ防災面において雨戸の必要性が見直され、雨戸リフォームも増えているそうです。
雨戸とは、防災(防風・防雨)、防犯、防音、室内の保温(温度調節)などの目的で、窓や縁側といった開口部の外側に取り付ける建具です。昔ながらの和式建築だと開口部の脇などに「戸袋」が設けられ、使わない時はしまっておくことができます。雨戸のルーツは平安末~鎌倉時代に登場した、鴨居と敷居の溝に沿って開閉する引違いの板戸「遣戸(やりど)」だといわれています。それまでは寝殿造りで使われた、開口部に吊り下げて上下に開け閉めする「蔀戸(しとみど)」が主流でしたが、平安末頃から遣戸も用いられるようになりました。鎌倉時代以降、「舞良戸(まいらど。板の表面に、「舞良子(まいらこ)」と呼ばれる細い桟を取り付けた板戸)」なども使われはじめ、蔀戸は次第に少なくなっていきます。室町時代になると、現代和風建築の基本となる、「書院造り(中世~江戸時代、「書院」という建物を中心とする武家の住宅様式)」が登場。これは複数の部屋を区切って使う構造だったため、遣戸は襖や障子と共に欠かせない建具となります。さらに採光を目的とした「明かり障子(障子を貼った板戸)」の誕生、表面に絵を描いて室内を華やかにするなど、遣戸は様ざまな性質を持つようになっていったのです。
雨戸が独立した建具になったのは、安土桃山時代だといわれています。江戸幕府作事方・大棟梁の平内吉政・政信父子が記した建築書『匠明(慶長13年(1608年)年成立)』に「昔は雨戸がなく、近年のもの」という記述があるのを見ると、安土桃山以前には、雨戸が一般的ではなかったことがうかがえます。
雨戸が定着するのは江戸時代で、雨戸は玄関にも用いられていました。特に時代劇でよく見る長屋は開口部がひとつで玄関と窓が兼用。そのため玄関の内側に障子張りの引き戸を、その外側に雨戸を設けていました。朝になると雨戸は外し、それを家の前に立てかけていたのです。家屋自体が大きく、一方、間取りの多い武家屋敷をはじめ、商家やその店舗、農家は玄関だけでなく、部屋の開口部に雨戸が付いていました。雨戸は今と同じく、防災のみならず、採光や温度調節、防犯の役目を担っていたため、どの家でも夜は「心張り棒(戸や窓が開かないように、内側から押さえておく「つっかい棒」のこと)、雨戸の下部に取り付けて敷居に差し込む「猿」などを用いて、泥棒や盗賊などの侵入を防いだそうです。
防災対策として再注目されている雨戸ですが、ちょっと前までは「洋風家屋には合わない(美観を損ねるなど景観上の理由)」をはじめ、「開け閉めが面倒」「ガラスの強度が向上したので付ける必要がない」と敬遠する人も少なくありませんでした。しかし、近年は様々な形状、材質の雨戸が登場し、住む人の生活スタイルに応じたタイプを選択できるようになっています。主なものは以下の通りです。
・引き戸タイプ:雨戸の基本ともいえるタイプで、使用しない時には窓の脇にある「戸袋」に収納。
・折れ戸タイプ:窓の真ん中から外に向かって両開きする仕組みで、片方だけ開けることもできる。戸袋がないため、洋風造りの家に最適。一枚板を用いた「単板タイプ」と、雨戸に角度を調整できる羽(ルーバー)があるので、閉め切った状態でも角度調整で風や光が入る「ルーバータイプ」などの種類あり。
・シャッタータイプ:店舗や車庫と同様、上部で巻き取り収納する仕組み。戸袋不要で家屋の外観がすっきりする。「手動式(開閉時は窓の開け閉めが必要)」と「電動式(室内からスイッチやリモコンで開け閉め可能)」があり、近年普及している。
雨戸の材質も1958年代後半から防火性が意識されるようになり、スチールなど、金属製の製品が作られるようになります。1960年代半ばになるとアルミサッシの普及も手伝って、1969年には全ての型材をアルミ製とした製品が発売され、1970年頃には戸板を含む、すべての部材がアルミ製の製品も登場しました。
なお、雨戸の素材が金属へと移行する中、シャッターの普及も進みます。初期の住宅の窓用シャッターとしては、1964年、『建築技術』誌で紹介された鋼製折り畳み式「横引きシャッター(日本シャッター製作所)」が知られています。1968年には、上部巻き込み式鋼製窓用シャッター「ミニシャッター(日本文化シャッター)」が登場し、1970年代に入ると、通風や採光、断熱・遮音性など、性能を高めた多彩な製品が開発されました。
1980年代に入ると、窓用シャッターの高性能化が進み、電動開閉式で、通風・採光のためにスラット(長方形の部材が蛇腹状に連結する部分)を動かす製品が発売されます。さらに1980年代後半になると、閉鎖時に障害物と接触した場合、反転上昇する安全装置の付いた電動シャッターも登場。1990年代以降は、戸袋が家屋の景観を損ねるということで、窓用シャッターの需要がさらに増加します。加えて、シャッターケースの小型化、ロック機構や警報装置の搭載など、意匠性・施工性・安全性・防犯性を重視した製品が、雨戸用シャッターも含めて、数多く開発されるようになりました。
現在、雨戸や窓のシャッター素材は、スチール(カラー鋼板、鉄など)、アルミ、ステンレスが主流です。スチールは価格が手頃な反面、錆に多少弱いというデメリットがあります。ステンレスは最も腐食しにくいシャッター素材で、高級感あるデザインが特徴。しかし、かなり価格が高い点がネックといえます。アルミは腐食しにくく、軽量なので開閉時に大きな音がしません。デザインも豊富ですが、やはりスチールに比較すると価格は高くなります。
ただ、様々なトラブルから家を守り、長く使う建具ということもあって、アルミのシャッターを利用する人は多いそうです。異常気象により、大型台風の増加と接近・上陸が懸念されている中、雨戸、シャッターの需要は今後も高まっていくことでしょう。
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