「ポンプ」「スプリンクラー」の歴史と、消火用スプリンクラー設計者の想い  - 前編 -

2020/03/13

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しさく解体新書
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「スプリンクラー」とは、液体や粉末などを散布したり、振りかけたりする道具・機器のことです。日本においては主に「消火・防火用自動散水装置」「(農業用)散水灌漑装置」の意味で用いられ、様々な種類があり、立地条件や用途によって使い分けられています。

 

火災から人と建物を守るスプリンクラー設備

スプリンクラー設備とは初期消火を目的として、火災発生時、自動的に火災感知から消火までを行う全自動式の消火設備です。消火設備の中では古くから(1800年代)用いられていており、高層ビルをはじめ、大型店舗や工場、一般建築物まで幅広く設置され、多くの実績をあげています。これは建物の天井に給水源につながる配水管を通し、スプリンクラーヘッドを一定間隔で取り付けたもので、火災熱によりヘッドが一定温度(67~75℃)になると放水口を開放。圧力水がヘッドの散水板に衝突し、広い範囲に散水する仕組みになっています。放水と同時に警報が鳴り、主止弁を手動で止めなければ散水は継続。この設備の基準は建築基準法、消防法によって規定されています。

 

なお、消火用スプリンクラーには「閉鎖型」「開放型」があり、さらに、一般ビルに用いられる「閉鎖型湿式」、電算機室などに設置する「閉鎖型予作動式」、寒冷地用の「閉鎖型乾式」、さらに舞台などに設置する「開放型」の4種類に分けられます。

 

消火用スプリンクラーの種類

◇閉鎖型:水の出口が常に閉じられているタイプ

・湿式スプリンクラー設備:一般ビル向き

配管内に常時充水・加圧している方式で、広く一般的に用いられている設備。火災時の熱によりスプリンクラーヘッドが作動し、放水が行われる。放水に伴って湿式流水検知装置が開くと表示・警報装置が作動する。天井高さが10m以下(物販用途等は6m以下)の部分に設置可能。ペンダント型(下向き型)やアップライト型(上向き型)などの種類あり。

 

・乾式スプリンクラー設備:屋外、軒下、寒冷地、暖房のない建物向け

配管内の水が凍結する恐れのある部分や建物などに用いられる。乾式流水検知装置の一次側に圧力水が充水され、二次側配管は圧縮空気で満たし、火災によりスプリンクラーヘッドが作動すると二次側空気圧力が低下。乾式流水検知装置が開放され、放水を行う。湿式同様、天井高さが10m以下(物販用途等は6m以下)の部分に設置でき、乾式流水検知装置が開くと表示・警報装置が作動する。

 

・予作動式スプリンクラー設備:病院、共同住宅、重要文化財、建造物、電算機室向け

ヘッドと火災感知器等の両方が作動しない限り放水しないのが特長。流水検知装置の一次側まで圧力水を充水、二次側配管には圧縮空気を充填。火災発生時、火災感知器がキャッチした火災信号により、まず予作動流水検知装置が開き、一次側の圧力水が二次側に流入する。次に圧力水が圧力スイッチを作動させ、火災警報を発し、一次側管内減圧によりポンプが起動。スプリンクラーヘッドが感熱開放することで散水が始まる仕組みになっている。非火災時、スプリンクラーヘッドが誤作動しても予作動式流水検知装置は開かず、水損事故を防止できるため、主に通信機器室や電算室といった対象物に用いられる。 乾式・湿式同様、天井高さが10m以下(物販用途等は6m以下)の部分に設置設可能。

 

◇開放型:水の出口が常に開いているタイプ

・開放型スプリンクラー設備:劇場などの舞台部をはじめ、化学工場や倉庫といった建物向け

感熱分解部分のない開放型スプリンクラーヘッドを、対象区域に設置した火災感知器などと連動して放水する方式。火災時、火災感知器が作動すると、該当する区域の一斉開放弁が開いて放水が行われる。制御盤、または手動起動弁の手動操作によっても設備の起動は可能。設備の起動用として、閉鎖型スプリンクラーヘッドを用いる方式もあり。開放型は、「火災が急速に成長、拡大する恐れのある対象物」「燃焼速度の早い対象物」「天井面が高く、熱気流の影響で、必ずしもスプリンクラーヘッドが開放するとは限らない場所」などに有効だといえる。

 

☆近隣火災、山火事といった災害を防ぐ「ドレンチャー設備」

 

スプリンクラーの中で、防火が目的の設備を「ドレンチャー設備」といいます。これは隣接建物の火災による延焼をはじめ、近隣の山火事、野火などから飛んでくる火の粉や輻射熱を防ぎ、重要木造建造物、屋外の文化財ほかの構造物、耐火構造物の開口部などを冷却、輻射熱を低減するために設置。遠隔起動押しボタン操作、開放弁の操作、周囲の火災を監視する検知器と連動することにより、壁、窓、屋根に放水が行われます。ただし、消火設備に含まれる設備ではありません。ドレンチャー設備は、ヘッドを取り付ける場所、放射方法によって次のような種類があります。

 

◇構造物自体に取り付ける方式:構造物自体にヘッドを取り付けるタイプ。

・吹き上げ式ドレンチャー設備:各階の下方にノズルを配置し、 上方に向け放射することで、各階の壁面や軒下の可燃物(木部)の延焼を防止。

・吹き下げ式ドレンチャー設備:上記とは逆に、各階の上方にノズルを配置、下方に向け放射する方式。

 

◇構造物周囲に取り付ける方式:周囲の地表面に配管(景観上埋設配管、トレンチ内配管)。

・地上吹き上げ式ドレンチャー設備:地表面下に設置したヘッドから、壁面や軒下に直接放射。対象構造物を冷却し防護する。

・水幕設備:地表面下に設置したヘッドから上方に放射することで水幕を作り、水滴により輻射熱を反射・吸収・低減させて延焼を防止。

 

多彩な利用が可能なスプリンクラー

消火・防火だけでなく、スプリンクラーは様々な場面で利用されています。中でも、よく見かけるのは「農業用散水装置」でしょう。これは農作物や芝生などに散水する装置をいい、一般的に農場で使用する場合、水源からのホースやパイプで繋いだ1個または複数のノズルによって散水。水のエネルギーによって回転するノズルが水滴を飛ばし、土壌や作物に水を供給します。農業用スプリンクラーは「可搬式」と「定置式」とに大きく分けられ、前者はスプリンクラーを任意の位置に移動して使用。後者は果樹園などの農地に施設化され、小面積から数百haにもなる大面積まで利用されています。

 

次回は、「スプリンクラーの農業以外の用途と歴史」についてご紹介します。

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