航空機・宇宙船にも使われるアルミ・リチウム合金 さらなる進化中

2021/01/28

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炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やケイ素(SiC)繊維といった軽くて丈夫な新素材が次々に登場し、航空機や宇宙船などの部品の材料としても実用化が進んでいます。かつてはこの種の話題の中心は、アルミニウム合金でした。そのため、アルミ合金に対し、「1世代前の素材で、技術的にもすでに熟成している」といったイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、今でも新しいアルミ合金が登場したり、以前からあるものも改良が加えられたりしています。中でも今、最も動きのあるのがアルミニウム・リチウム合金(アルミ・リチウム合金)です。

 

航空機材料の歴史はアルミ合金の歴史

アルミ合金の研究・開発と、航空機の発達は切っても切れない関係にあります。

 

ほぼ航空機の歴史とともに進んだアルミ合金

1903年に世界で初めて飛行に成功したライトフライヤー号は、エンジン以外は主に木と布でできていました。しかし、機体(ボディー構造)への金属の導入は意外に早く、1910年代には始まっています。初の全金属製旅客機はドイツ・ユンカース社が開発した「F.13」で、初飛行はライトフライヤー号からわずか16年後でした。

 

その「F.13」のボディー構造に使われた金属はアルミ合金の一種、ジュラルミンでした。ここからすべての航空機が一気に金属化したわけではないものの、航空機材料の歴史は新しいアルミ合金開発とともに歩んできました。強度だけではなく軽さも必要な航空機材料には、アルミ合金以上の素材はなかったのです。

 

アルミ合金が航空機材料の主役である時代は長く続きました。世界2大航空機メーカーのひとつ、ボーイング社の747型機(1969年初飛行)では約81パーセント、777型機(1994年初飛行)ではやや減ったものの約70パーセントがアルミ合金でできています。

 

ジュラルミンとは

初期のジュラルミンの基本的な組成は、アルミニウムをメインにして、銅4パーセント、マグネシウム0.5パーセントでした。鉄と炭素の合金である鋼に比べ3分の1程度の軽さであるにもかかわらず、引っ張り強度は350MPa前後あり、一般的な鋼の400〜500Mpaに大きくは見劣りしません。

 

さらに高い引っ張り強度を求めて改良が加えられた超ジュラルミンや超超ジュラルミンも登場し、やはり航空機材料の主力になりました。

 

アルミ・リチウム合金の歴史

アルミをメインにして、リチウムを加えたものを「アルミ・リチウム合金」といいます。アルミ合金の一種ですが、ほかの多くのアルミ合金とは違い、特にこの名前で呼ばれることが珍しくありません。

 

リチウムよりも軽い金属はありません。アルミ合金をいっそう軽量化するために、アルミ・リチウム合金も1920年に開発されました。しかし、結晶方向によって靭性(じんせい、粘り強さ)・延性(延びやすさ)などが極端に異なるために使いにくいものでした。

 

注目を浴びるようになったのは、1973年のオイルショックがきっかけです。省燃料化のために航空機材料のいっそうの軽量化が急務になりました。リチウムの配合比率を変えたり、鋳造・溶解方法を工夫したりすることで欠点を解消していきました。

 

航空機にも採用され始めたほか、再使用型有人宇宙船・スペースシャトル(1981〜2011)では外部燃料タンクに使われています。比較的近年でも、ボーイング社のライバル、エアバス社が開発した「A350 XWB」(2013年初飛行)では主に胴体部分で使われ、ボディー構造全体で考えると21パーセントがアルミ・リチウム合金でした。

 

炭素繊維強化プラスチックとは

とはいえ、最新の航空機では、アルミ・リチウム合金を含むアルミ合金が主役の座を降りつつあるのも否定できません。A350 XWBのボディー構造でも実に53パーセントが炭素繊維強化プラスチックです。また、A350 XWBの対抗機種とされるボーイング社の787型機(2011年初飛行)でも炭素繊維強化プラスチックなどの複合素材が50パーセント、アルミ合金が20パーセントでした。

 

炭素繊維強化プラスチックは、強度や弾性のよさで知られる炭素繊維にプラスチックを浸透させたものです。重さはアルミよりもさらに軽く、3分の2程度しかありません。「振動やねじれ、衝撃に弱い」ともされますが、一般的な強度はアルミ合金よりも上です。ただ、製造コストの高さや加工のしにくさといったデメリットもあります。また、高温には弱く、エンジン部品には使えません。

 

まとめ アルミ・リチウム合金の今後の課題

一方、アルミ・リチウム合金も、炭素繊維強化プラスチックほどではないにしても、ほかのアルミ合金との比較では製造コストの高さと加工のしにくさといったデメリットがあります。いわば、炭素繊維強化プラスチックと一般的なアルミ合金との中間的存在といったところです。

 

炭素繊維強化プラスチックとは異なり導電性があるために、電気通信用部材などとしても使われ始めました。ただ、航空機材料としても、ほかの素材としても、いっそう普及するかどうかは今後の改良でこれらのデメリットが解消するかどうかにかかっています。実際、軽さと強度を兼ね備えたアルミ・リチウム合金に代わる金属はほとんどなく、盛んに研究・改良が進められているところです。

 

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