自動車エンジンのタフな要求にもこたえるアルミ合金製の鋳造部品

2021/01/25

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機械加工
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アルミニウムやアルミ合金に対し、「軽いが、すぐに曲がってしまう。鉄などほかの金属に比べて弱い」と思っている人は少なくないでしょう。しかし、これは純粋なアルミや強度が必要ではないところに使われるアルミ合金に限った話です。

 

実は自動車、それもエンジンの主要部分にもアルミ合金が多用されています。これらアルミ合金がどう工夫されて、何年にも渡って高温や摩耗にも耐える部品になっているのか見てみましょう。

 

オイルショックでアルミ合金の採用が急増

1960年代まで、アルミ製の自動車部品は主にレース用スポーツカーが使う特殊なもので、しかもほぼホイールに限定されていました。次第に一般車にも使われるようになりましたが、やはりホイール限定です。一般車のボディーやエンジンにまで採用を加速させたのは、1973年のオイルショックでした。燃費の向上のために軽量化が緊急課題になり、それまで鉄などで作っていた部品がプラスチックやアルミ合金に置き換えられたのです。

 

もちろん、車種にもよりますが、今では車重全体の約8パーセントをアルミ合金を中心にした非鉄金属が占めています。アルミ合金で作られているのは、ボンネットやドアといった外装はもちろん、シャシー、ラジエーターの熱交換部品などです。そして、最もタフな条件を要求されるエンジンも、今ではアルミ合金なしでは考えられません。

 

エンジンに欠かせないアルミ合金の鋳造部品

アルミ合金がエンジン部品など自動車に使われる理由は、軽さだけではありません。「合金の成分を変えることで、耐摩耗性が増したり、引っ張り強度が増したりと、様々な特徴をもたせることができる」「大量生産が容易な鋳造に適している」といったメリットも理由になっています。

 

アルミ合金でエンジンが作れるわけ

「一円玉やジュース缶の原料でもあるアルミで、どうしてエンジン部品が作れるのか」と不思議に思うかもしれません。

 

実は、アルミは合金化することで性質を様々に変えることができます。たとえば、自動車だけではなく航空機の構造材にも使用されることで知られるジュラルミンは、アルミに銅やマグネシウムを加えたものです。アルミの持つ大きなメリットである耐食性は落ちるものの、引っ張り強度が増します。「腐食しやすくなるが、たわんだり伸びたりするところに使うのに適している」と言い換えてもいいでしょう。

 

各種のアルミ合金製の部品は、デメリットを補う処理をしたり、そのアルミ合金の特徴が生きるところを選んだりして使われています。

 

部分ごとに違う性質が要求されるエンジン部品

一口にエンジンといっても、主なものだけでも次のような部品があります。

 

・シリンダーブロック(シリンダーとクランクケースを一体化したもの)

・シリンダーヘッド(シリンダーを密閉するフタ部分)

・クランクシャフト(ピストンの往復運動を回転力に変える軸)

・クランクケース(クランクシャフトを収めるスペース)

・カムシャフト(クランクシャフトが作った回転力を、もう一度往復運動に変える軸)

・ピストン(シリンダー内を上下動する、断面が円形の部品)

 

たとえば、ピストンは、シリンダーと呼ばれる筒の中で起こさせた小さな爆発の圧力で上下運動します。当然、シリンダーの内壁とピストンは高温になり、しかも擦れ合います。高い耐熱性と耐摩耗性、あるいは放熱性がなければ、すぐに焼き付いてしまい使い物にはなりません。

 

ほかの部品も、単に高い強度が求められるというのではなく、「せん断」「圧縮」「引っ張り」「ねじり」などそれぞれに異なった種類のストレスに耐えなければいけません。銅・マグネシウム・亜鉛などアルミに加えるものを変え、合金の性質も変化させることで対応しています。

 

大量生産を可能にしているのは鋳造の様々な技術

「鋳造(鋳物)」とは、高温で溶かした金属を型に流し込む成形方法、あるいは、その製品をいいます。大量生産に適しています。

 

鉄瓶など家庭用品でもおなじみですが、現代の鋳造は様々な工夫が加えられ、耐久性や精密度など機械部品の高い要求にもこたえられるようになりました。

 

たとえば、近年著しい進化を見せている鋳造の一種にダイカストがあります。単に型に流し込むだけではなく、圧力を加えるのが、昔からの鋳造との主な違いです。細かい形状になっている部分にまでしっかりと溶けた金属が押し込まれ、また、「引け巣」と呼ばれる空洞も避けることができるようになりました。

 

もちろん、ほかの金属でもできますが、この鋳造と相性のいい金属がアルミ合金です。アルミの融点は純度の高いものの場合で660度しかありません。合金化しても、ほぼ同じか、それよりも低いものが大半です。鉄が1,536度、銅が1,085度であるのに比べると、容易に溶かすことができ、しかも、合金の比率を変えることでいっそう流しやすくもできます。

 

「自動車部品が大量生産できるのも、鋳造の技術の進歩とアルミ合金のおかげ」と考えてもいいのではないでしょうか。

 

 

 

まとめ アルミの鋳造部品は大量生産に最適

もしも、「新しく部品を開発しようとしているが、アルミでは強度が足りないかもしれない」といったときは、自動車エンジンを思い出してみましょう。かなりの悪条件にまで耐えられることがわかるはずです。

 

「切削などほかの加工もしやすい」「素材としての値段が安い」といったメリットも見逃せません。何よりも、鋳造との相性がよく、大量生産に向いた金属です。簡単にあきらめてしまわずに、専門的知識を持った人に相談することをおすすめします。

 

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