2021/03/29
「溶接」といえば、まず思い出す光景は、「目のところだけ透明になったマスクで顔を保護し、手に持った道具の先から火花を飛ばしている」ではないでしょうか。もちろん、これも溶接のひとつで、「アーク溶接」といいます。しかし、溶接にはこれ以外にもたくさんの方法があります。また、金属と金属を接着する方法は、「リベット」などほかにもあります。それらの特徴をよく把握して、使い分けるようにしましょう。
溶接はその文字のとおりに、溶かすことで一体化させて、2つ以上の金属を接着させる方法です。紀元前3,000年にはすでに、密着させた金属をハンマーでたたくことで熱と圧力を発生させて溶かす「鍛接」が行われていました。古代エジプトの王・ツタンカーメン(前1347ころ‐前1338年ころ)の棺の中からも、鍛接で作られた鉄製の装飾品が見つかっています。
ただ、本格的な工業に使うには、金属を溶かせるだけの高温になり、しかも手軽に使える熱源の開発がネックでした。これが解決したのは、19世紀の終わりから20世紀にかけてです。現在では、レーザーはもちろんのこと、超音波を利用するものも登場するなど、ハイテクが競われる分野になっています。
溶接の種類分けは、熱源や装置などどこに注目するかでさまざまなものがあります。以下は、金属の精製や加工技術を扱う冶金学からの分類です。
互いにくっつけようとする部材のことを「母材」といいます。外からエネルギーを与えて、この母材などを溶かすのが「融接」です。
「アーク(arc)」とは、「2つの電極の間の放電で作られる円弧」のことをいいます。古くはこの現象を利用して電灯も作られました。
溶接の場合は、母材とは別に電極棒を用意し、これらが離れた状態で、母材にマイナス、電極棒にプラスの電圧を掛けます。すると、離れていてもこれらの間に電気が流れるようになり、強力な光と高い熱(5,000-20,000°C)が発生します。
この電極棒も溶けて接合のための材料になる「消耗式」と、電極棒はそのまま残る「非消耗式」があります。 また、アルミニウムなどほかの元素と結合しやすい金属は、単純なアーク接合では母材の表面に化合物ができてしまい、一体化しての接着ができません。そのため、反応を阻止する不活性ガスを同時に吹き付ける方法が開発されました。これにも電極棒に種類の違いがあり、消耗式を「ミグ(Metal Inert Gas)溶接」、非消耗式を「TIG(Tungsten Inert Gas)溶接」といいます。
「レーザー(light amplification by stimulated emission of radiation)」は日常的に見かける言葉になりましたが、語義を改めて確認すると、人工的に光を発生させる装置の一種のことです。あるいはそれで作られた光を指すことも珍しくありません。 この光は拡散しないために、狙ったところに正確に当てることができます。また、高いエネルギーをもたせることもできます。接合に使われるレーザーは特に強力で、「光」といっても目には見えません。 アーク接合とは異なり異なる種類の金属も接合でき、また、精密な加工も可能です。
母材とは別に、溶かして接着させる合金を用意するものをいいます。接合の力はやや弱いものの、手軽さから美術工芸品や日用品によく用いられてきました。 基盤の上にコンデンサーなどの電子部品を取り付ける際に用いられる「はんだ」もこのろう付けの一種です。
密着させた母材に圧力を加える方法です。ツタンカーメンの棺から出てきた装飾品に施された「鍛接」もこの一種です。以下のような工夫も加えることが珍しくありません。
たとえば、「爆発圧接」の場合、火薬の力により強力な圧力を得るのと当時に、高温にもし、溶接の効果を高めています。
金属同士を接着させる方法は、「冶金的接合(材料的接合)」である溶接だけではありません。「機械的接合」であるボルトなど、「化学的接合」の接着剤もあります。
リベットとボルトの定義を確認しておきましょう。重ね合わせた金属板に棒状の金属を通し、それの頭をつぶして留めるのがリベットです。ボルトの場合は、金属棒にネジが切ってあり、ナットとの組み合わせで締めます。
どちらも、長らく船舶・航空機・橋・ビルなどに広く使われてきました。ただし、強度で劣るため、今では次々に溶接に取って代わられています。
とはいえ、特殊な機器は要らず、コストもかからないというのは、今でも大きなメリットでしょう。また、特にボルトの場合、解体や再組み立てが容易にでき、母材も繰り返し使えます。
板状の母材の端を巻いて一体化するのが「巻き締め」です。同様に、折り曲げた場合を「折り込み」といいます。身近なものでは、ジュース缶のフタと銅の接着には巻き締めが採用されています。これでもまったく水漏れせず、しかもこの工程にはひとつあたり0.03秒しかかりません。
軸と軸受けなど円形の部品同士を固定させるのによく使われるのが「焼きばめ」です。受け側になる軸穴の素材を熱で膨張させ、その間にその軸穴によりもやや大きめにつくった軸をはめ込みます。逆に軸側を冷やして収縮されせる「冷やしばめ」といいますが、焼きばめほどには一般的ではありません。どちらであっても、常温になれば膨張や収縮がなくなり、固定されます。
接着剤には溶接やリベットのような強度や耐熱性はありません。とはいえ、金属用となっているものは、通常のものよりは強度や耐熱性は高められてはいます。
また、金属同士はもちろんのこと、相手が樹脂やセラミックスといった異質な素材でも使えるのは、ほかの方法にない大きなメリットです。
ボルトなどの「機械的接合」、接着剤の「化学的接合」に比べ、いっそう確実・強力な接合が期待されているのが溶接です。
ところが、しっかりと溶けずに母材が一体化していない「融合不良」、内部に泡状の空洞ができる「ブローホール」、不純物化したカスが交じる「スラグ巻き込み」などのトラブルも起こりがちです。もちろん、これでは接着の強度が期待通りにはなりません。また、製品によっては見た目の処理の美しさも必要です。
ハイテクも導入され自動化も進む溶接ですが、これら不良品対策などは今でも職人のスキルに頼る部分が小さくありません。依頼する業者は慎重に選びたいところです。
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