4人の知恵を結集し、「はやぶさ2」のリターンサンプル分析にも貢献 北海道大学GFC機械工作室インタビュー

2021/08/03

北海道大学の理学部キャンパスにある「旧極低温液化センター」内には、グローバルファシリティセンター 試作ソリューション部門の機械加工を担う「機械工作室」がある。ここでは学内外からの研究ニーズを満たす実験・観測装置のオーダーメイドを行うほか、企業からの依頼を受けて高難易度の加工案件を請け負っている。

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▲     左から楠崎さん、佐々木さん、武井さん、女池さん

 

代表事例は2010年6月に地球に帰還し、小惑星「イトカワ」の表面物質搭載カプセルを地球に持ち帰った「はやぶさ」に関するもの。また、2020年12月に地球に帰還した「はやぶさ2」にまつわる製作事例も担当した。

「機能を必要とする方のために、ビスなどを除けば全部手作りで、1から作るというところが他とは徹底的に違うところです」と最年長の女池さんは言う。研究者とのものづくりで培い、理学のみならず産業分野も含めて広く実力を発揮しはじめている「北大の機械工作」の源泉について伺った。

 

部局を超えて機械工作の技術職員が結集 理学を中心に大学・研究機関や企業のものづくりを支援

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女池さんは札幌生まれ・札幌育ち。一時は自動車販売会社で整備士を務めたが、その後公務員試験を受けてKEK(現 高エネルギー加速器研究機構)に着任。平成元年(1989年)に北海道大学に転任し、以降32年のキャリアを北海道大学で積んだ。

 

代表事例は「はやぶさ」のリターンサンプルホルダだ。小惑星から表面の物質(サンプル)を地球に持ち帰る技術を実証したはやぶさだが、同位体顕微鏡で分析したところ、メーカーが作った既製品のサンプルホルダでは有益なデータが取れなかった。女池さんは研究者の依頼を受けてホルダをオーダーメイドで製作し、ひずみを徹底的に取り去る精密加工で有効な分析を可能にした。それ以来、このホルダは通称「女池ホルダ」と呼ばれるようになった。

 

こうした宇宙惑星科学分野のものづくりがこの機械工作室に舞い込むのは、女池さんが培った研究者からの信頼によるものが大きいという。

 

「『女池ホルダ』の原型になるものを、本学の理学部に当時いらっしゃった圦本(ゆりもと)尚義先生に見ていただいた際、お会いしたその場で寸法をノギスで測っていらっしゃったんです。そこで精度を非常に評価して下さいまして、それが現在の仕事につながるということがありました」

 

女池さんは、6年前までは北海道大学電子科学研究所に在籍していたが、現在は理学部の所属。

 

同じく理学部に所属するのが佐々木さんだ。2004年に着任して以来、17年間の機械工作のキャリアを持つ。

 

佐々木さんは、理学部としての機械工作の特色は「図面がないところからのものづくり」であるという。生物分野や化学分野の研究者の場合、図面を書くことができない場合もあるため、そうしたケースもサポートしている。研究目的のものづくりで培った「機能を実現する技術」を、より広く産業分野にも活かしていきたいと考えているという。

 

「この工作室で、他にはない特別な設備としてはこの放電加工機ぐらい。あとはよくあるCNC旋盤やCNCフライス盤、マシニングセンタなどです。それでも『はやぶさ2』でJAMSTECさんなどからの依頼が継続していただけているのは、他ではできなかった要望を実現するアイデアを出しているから。ここにいる4人の知恵を結集してものづくりに取り組んでいるからなんです」

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▲     機械工作室では放電加工機を現有している

 

佐々木さんの言う「4人の知恵」はどこから来るのか。

 

女池さん・佐々木さんとは異なり、電子科学研究所に在籍する武井さんは「女池さんとは師弟関係にある」と語る。女池さんが理学部へ異動となるまで、同じ所属で仕事をしていたためだ。

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 「女池が私のいる電子科学研究所を離れ、一時はものづくりを一緒に取り組むことがなくなったのですが、グローバルファシリティセンター(GFC)の取り組みが始まり、部局を超えてまた一緒に仕事ができるようになりました。大学と言うと縦割り・学部ごとというイメージがありますが、GFCがあるお陰で、その垣根を取り払って仕事が出来ています」

 

武井さんは現在、GFC試作ソリューション部門の副部門長も務めている。

 

試作ソリューション部門は学内外の研究者・技術者に向けて、研究・教育・実用機器について、最適な試作を提供することを目的に発足した。「共用を設備から技術職員の技術へ」のスローガンのもと、機械工作室・硝子工室・薄片技術室の3つの技術室の窓口を提供するものだ。

 

宇宙惑星科学のほかに、光・生命・ナノテクノロジーなどの理学分野をはじめ、企業からの依頼を含めたオーダーメイドが必要な機械工作について、電子科学研究所だけでも年間150件前後の依頼を請け負っている。

 

「我々の場合、多くのものづくりは設計からスタートしていきます。というのも、私が所属する電子科学研究所で扱う光・物質・生命・ナノテク・数理科学などの分野では、先生方は図面を書くことまでは専門としませんので、それは我々がサポートする領域だと捉えています。そうした大学での経験も活かしているので、ポンチ絵からでも依頼を受けることができるのです」

 

武井さんと同じく電子科学研究所に所属するのが楠崎さんだ。京都の美術系大学を卒業後、北海道大学の修士号を取得。修士課程では研究用に生き物を飼う実験水槽を自作し、そこでものづくりによる研究支援への関心が芽生えた。理学部の機械工作室での非常勤職員を経て、現在は電子科学研究所の技術職員となった。技術職員としては5年目にあたる。

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「周りのみなさんと比べるとキャリアは浅いのですが、すでに重要な仕事を任せていただいています。某大手ビール会社さんの商品エンブレムつきビールサーバーの、エンブレム部分の製作などです。機械工作が活きるということで我々が担当することになり、同じ試作ソリューション部門の薄片室とも連携しながら一緒に試行錯誤しました」

 

非常に微細な加工が要求され、ビールサーバー本体を製造しているフランスの企業ではデザイン通りの製作ができないことから、国内のさまざまな企業などに相談があり、その中で機械加工室にも相談があったという。細いところは数百μmの細さの加工で、上下で色分けを要求されるもの。楠崎さんは塗装やデザインデータのデータ形式変換などの実務を担当した。

 

国内の他社では「不可能」と言われたというこの案件に、自ら率先して手を挙げたのは武井さんだ。「他社では断られたというのを聞いて、やってみたいと思った」と言う。

 

「機械加工を用いたもののほか、グローバルファシリティセンターで一緒にやっている薄片技術室の力も借りて、薄片技術を用いてアルミを削り、エンブレム部分を浮かび上がらせるものも含め3パターンを製作しました。総力で取り組んだ結果うまく結果が出て、そのうちの1パターンはいま、依頼主であるビール会社さんの社長室に飾っていただいているそうです。必要とされていたものを届けられたので、やってよかったな、と思います」

 

「はやぶさ2」でも新たなニーズに対応 サンプルを大気に触れさせないままNanoSIMSでの分析を実現

これら4人からなる機械工作室のチームのうち、2020年12月に地球に帰還した「はやぶさ2」にまつわる新たな製作事例において、中心的な役割を担ったのが武井さんだ。

 

はやぶさ2の行き先は小惑星リュウグウで、太陽系が生まれた頃(今から約46億年前)の水や有機物が今でも残されていると考えられている。「生命を構成する有機物はどこでできたのか」という謎を解くためのヒントとなることが期待されている。0.1グラムの目標量を大きく超えて採取された5.4グラムのサンプルは、現在(2020年7月)各大学・研究機関に行き届きつつある段階だ。

 

代表的な分析が、SIMS(二次イオン質量分析)である。イオンを試料表面に入射させると生じる電子・中性粒子・イオンのうち、イオンの質量ごとの検出量を測定することで、試料中に含まれる成分の定性・定量を行うことができる。こうした手法をもってリュウグウのサンプルの成分を分析し、生命の起源を探る研究が始まろうとしている。この分析プロセスに課題を発見し、その解決を機械工作室に依頼したのが、JAMSTEC(海洋研究開発機構)高知コア研究所に所属する伊藤元雄研究員だ。武井さんは言う。

 

「伊藤先生は、地球に帰ってきたサンプルを大気に触れることなくホルダに固定すること、ホルダに固定されたサンプルをこれもまた大気などに触れずにNanoSIMSに導入することを狙いとしていました。出来るだけ地球にあるもの――大気とかもそうなんですが――に触れない状況で分析器の中に入れて分析したいというのが狙いなんです」

 

伊藤研究員が指定したNanoSIMSの製品仕様や要件試料をもとに、武井さんらの挑戦が始まった。

「チャレンジとしては大きく分けて2つありました。『① 帰還したサンプルをピンスタブと呼ばれるホルダに確実に固定する装置を作る』そして『② ピンスタブに固定されたサンプルを大気非曝露のままNanoSIMSに導入する機構を作る』です。②は4人全員の知恵を出し合って作りましたが、いま高知コア研究所にありますので、今回は手元にある①についてのみお話しします」

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▲     最終的にNanoSIMS側の試料ステージに装着されるピンスタブ

 

ピンスタブ(試料台)は、SEM(走査電子顕微鏡)やNanoSIMSなどのSIMS(二次イオン質量分析計)のユーザーには汎用的なサンプル台だ。ここに金やインジウムなどの柔らかい金属を載せ、圧力をかけて小さな試料や粉状の試料を固定する。機械工作室のチャレンジは、内部を外気と遮断して作業を行えるグローブボックス内で「誰でも簡単に」「素早く」「ロスなく」サンプルを固定できる機構を開発することだ。

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▲     機械工作室で製作した装置の全体像

 

「ピンスタブをこの装置の中に入れて、カバーをします。カバーは2つの機能があり、ピンスタブが中心から動かないようセンタリングの役割を果たすのと、貴重なサンプルが穴から落ちないようにすることです」

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▲     ピンスタブが装置に設置された状態

 

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▲     ピンスタブの周囲をカバーが固定し、センタリングされた状態

 

「そこに上部圧着部品を置きます。サンプルは数十~200μm程の厚みを想定しおり、この時点では上部圧着部品に組み込まれたサファイアガラス底面とサンプルは接しない位置関係になるよう、Oリング(オーリング)を配置しています」

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▲     2つの部品でサンプルを密閉する

 

「その状態からこのクランプを使って、顕微鏡で見ながら押しつぶしていきます。柔らかい金属へとサンプルがグニュグニュグニュと埋まっていくのが確認できます」

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▲     クランプを締めると軸上に降り、まっすぐにサンプルを降ろすことができる

 

「この作業をグローブボックスの中で行うことで、大気非曝露のままピンスタブにサンプルを固定できるわけです。このピンスタブが試料ホルダ、たとえば女池ホルダに載せられたり、NanoSIMSの試料ステージに装着されたりし、分析に持って行けます。ここから先をどのように行うかが先ほど述べた第2のチャレンジなのですが、そのご説明はまたの機会にさせていただきます」

 

大学で培ったものづくりを、地域に広げ、次の世代にも継承 企業のニーズにも応えていきたい

現在はアカデミックな案件が多数を占めるという機械工作室だが、女池さんは機械工作室を「地域に開かれた存在」にしていきたいと語る。

 

「大学の工作室のイメージを変えていきたいと思っています。グローバルファシリティセンターの取り組みがそれを推進してくれるのではないかと思っています。いろんな方に知っていただいて、どんどん広がっていけばいいなと」

 

女池さんはGFC試作ソリューション部門の発足当時、部門長を務めた。現在はその役職を後進に譲っている。現在、副部門長を務めるのが武井さんだ。

 

「私の個人的な夢ではあるのですが、『ものづくりはカッコイイこと』という認識を広げていきたいと思っています。2人の子供がいるのですが、まだ何をしているのかしっかり理解できる年齢ではなくても『お父さんすごい!』と言ってもらえる魅力的な仕事なんです。裏方のイメージがある技術職ですが、我が子に限らず、学生さんや未来を担う子供達にも魅力を感じてもらい、将来の選択肢に技術者が含まれるようにしていきたいですね。そのためにも、目の前の仕事に向き合い、邁進していきたいと思います」

 

佐々木さんは「大学外でも通用する伝え方とスキル」の必要性を強調する。

 

「産・官・学というところの官・学のみならず、『産』の分野の研究者との仕事ができるように私たちの仕事の付加価値を、もっともっと見える化していきたいと思っています。もちろん、それに足るだけの、我々にしかできないスキルをこれからも磨いていくことが前提です。今日の取材も通じて、そのことが伝わってくれたら嬉しいです」

 

楠崎さんは、技術者としてのスキルを向上していくことのみならず、納品時のホスピタリティの必要性に触れた。

 

「黒い梱包材に入れて、見た目もスマートにして納品するということを女池や佐々木がやっています。まずきちんと機能を持ったものをつくれるということありきですが、その上で、私たちのものづくりを受け取った方が抱く印象も大切にしていきたいと思っています」

 

 

彼ら4人がものづくりを請け負う「試作ソリューション 機械加工部門」は日本軽金属のWebサイト「試作ドットコム」で依頼可能だ。

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