「何にもない時代に、日本で初めてのことをたくさんやってきた」 試作の匠がこだわる、"一手間"かけたものづくり

2019/10/21

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試作の匠
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埼玉県にある「株式会社 テクノ工房」代表・吉川幸雄さんは52歳の時に脱サラして町工場を構えた人物。“試作の匠”とも呼ばれ、若手に慕われる吉川さんが率いる「テクノ工房」では、樹脂型簡易射出成形やアルミ型成形などのプラスチック製品試作の技術を用いて、コストのかかる少量の試作を低予算かつ高品質で実現。「要求されるものを、なんでもつくる」と、幅広いニーズに応えてくれます。

 

「日本のものづくりが変わる」という直感

株式会社 テクノ工房」代表・吉川幸雄さんは、大手医療メーカーや自動車メーカーで用いる大量生産品の試作から、生活に根付いた日用品の試作まで、幅広い試作を手がけ、製品のタネをつくり続けてきた人物。

 

「このお酒のカップも僕らのアイデア」と見せてくれたのは、内側にアルミが貼られ、保温効果のあるプラスチックカップ。今ではすっかり“当たり前”の形状ですが、最初にこのカタチを思いついた人がおり、それがテクノ工房の吉川さんだ。

「当時は勤め人でした。同族経営ながら、大きな設備を持っていたその会社で僕は様々な“初めての”アイデアを出してきました。その会社は、お客様のニーズを聞いて提案し、成形する会社。バブルが弾ける前までは、メーカーにも消費者にもそれぞれ元気があって、工業部品から日用品まで、色々なものが開発されて、大量生産されて、日本で消費されていました」

 

しかし、バブル崩壊後、社会の雰囲気が徐々に変わっていきます。

 

「大量生産の時代の終わりを感じ、モノが売れなくなる時代が到来するだろうと気付き始めたんです。僕は33年勤めた会社を52歳で退職しました。

 

困っている開発担当者が、駆け込み頼る町工場

「基本的に営業をしてこなかったんですよ」というテクノ工房は現在23期目。加熱による加工が容易な熱可塑性をもつ合成樹脂を流し込む真空注形による簡易型の生産や、オリジナル技術のアルミ成形により、大量受注によるコストダウンではなく、極小ロットでも低コストを実現。実際に大量生産の際にも用いられるもと同品質の試作を少数からつくっています。

「コスト面でいかに開発担当者が困っているかということは独立してからひしひしと感じます。僕は日本のものづくりが幕を開けて間もない頃からこの業界にいるので、一つの新しいものを世に送り出せるようになるまでにどれほどのコストがかかるかを想像できます。近頃の設計者はものづくりを知らない人も少なくありません。基本的には『要求されるものをつくる』というスタンスですが、つくる上での提案やアドバイスをさせていただくこともあります」

 

試作屋を始めて以来「教えてください」と相談を受けることも多いという吉川さん。

 

「難しい相談も多いですよ。けれど、日本に何にもない時代に、初めてのものをたくさん作ってきた世代ですから。やると決めたら、やれるように行動する。“執着”とはそういうことです」

 

と、モノづくりの精神を語ります。

 

積み木のように手作業で組み立てる、多様な型を実現する技術と知恵

テクノ工房が得意とするのは、様々なジャンル、かつ数の少ない試作を低コスト・短納期で製作する技術と知恵。専門のノウハウや経験豊富な職人たちがときに提案を加え、“人手”でつくりあげる。

「例えばこの部品の組み立て。忘れないように番号が振ってありますが、とても大変でした。細かい部品が多いでしょう? このようなパーツを一つずつ、積み木のように組み立てていくんですよ。人手で成形するというのは、非生産的で今の成形の現場とは離れているかもしれません。機械を使って成形をすることを楽と考えるか、手でつくることをこっちの方がいいと思うか、感じ方は色々でしょう。ただ、“職人”とはこういうものだったんですよ。手先の器用さに憧れを持ったり、持ってもらったり……。難しい相談にこたえるためにも、この方がいい。納期も早いですしね」

 

大量生産品となれば、開発・試作を日本で行えど、テストや発売が海外先行となることの多い、日本のものづくり。「大量に売れるものは、もう日本にないかもしれない」と言いながら、そうであればそれに合わせたものづくりのスタンスでこたえられるように柔軟に。

「担当者がコストで苦しんでいるのが現状。メーカー同士、価格競争も始まっています。その中で町工場ができることは何かと考えていかなければいけません。昔は、町工場も大きな会社も今とはスタンスが違っていました。みんな“日本の将来のため”と、ものづくりの未来を考えていました。今はどうでしょう。みんな“自分さえよければ”の思考に陥っているように思えます。それでは、日本全体としてのものづくりがこれ以上よくなることはないように思います。

 

僕らは今、縁があって若い人たちと一緒にやっています。僕自身の次の目標は“橋渡し”をしていくこと。技術もそうですけれど、『リスクを負って、挑戦する』モノづくりの精神を残していかなければと思っています。やろうと思って、できないことはありません。失敗したことありませんもの(笑)。これがつくりたいんだ、と自分たちに夢を賭けてくださるというのは、とてもワクワクすることです」

 

大切なのは「面白い、やってみよう!」の精神と行動だと吉川さん。吉川さん率いるテクノ工房は、情熱と挑戦心、長年培った経験と技術で、多様なニーズの具現化を得意とするものづくり集団。

 

「頭をかかえる仕事がある方が元気でいられます」と笑う吉川さんは、一生現役。「60%の完成度であれば、もうやってみましょう。アイデアを足します」ときっぱり。心強いパートナーとなってくれるでしょう。

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