日本刀から数百トンのシャフトまで 金属の強度を高めて使う鍛造

2021/02/02

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機械加工
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鍛造は、金属素材をたたくことで成形し、靭性(じんせい、粘り強さ)などの強度を高める加工方法です。「赤く熱した鉄を、手にした金づちでたたく」といった「鍛冶屋(かじや)さん」のイメージが強いために、小さな道具作りを思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、現代の鍛造は機械力も利用し、数百トンクラスのものも製造します。また、素材の金属を熱するとも限りません。

 

鍛造とは

鍛造を単に、「金属をたたいて必要な形にしている」と考えているならば、大きな間違いです。実は、金属としての性質まで変化させています。

 

鍛造で金属は強くなる

一般的に金属は、高温で溶かした後に冷やして固めただけではもろく、強度も高くありません。この「できたての金属」を溶けない程度の高温にして繰り返したたくと、結晶の粒子が細かくなります。靭性は上がり、特に衝撃に対して強くなります。また、高温のときの伸びもよくなります。

 

金属部品ならば、「鍛造によってできたものは強度が高く、複雑な形への再加工にも耐えられる」と覚えておけばいいでしょう。

 

鍛造で生産されるもの

「数百トンクラスのものも製造」するというのは、大型船のクランクシャフトの話です。「クランクシャフト」とは、エンジン内のピストンの往復運動を回転力に変える軸のことをいいます。

 

自動車ならばクランクシャフトやギア類、鉄道車両でもクランクシャフト・モーター主軸シャフト・歯車、航空機ならばジェットエンジン内の回転部品などが鍛造での製品です。工具類ならば、ペンチやスパナなどがあります。いずれも、ほかの部品類よりももう一段上の強度が必要なものと考えればいいでしょう。

 

フォーク・ナイフといった家庭用品や、指輪などのアクセサリー類の中にも鍛造のものがあります。もちろん、日本刀も忘れるわけにはきません。切れ味の鋭さも、「素材の鉄が金属としての性質まで変化したため」と考えていいでしょう。

 

鍛造の種類

鍛造は、現代の工業生産には欠かせません。様々に工夫され、種類も意外にたくさんあります。以下は分類方法の一例です。

 

加工時の温度の違いによる分類

  • 熱間鍛造=最も狭い意味の「鍛造」と考えていいでしょう。鉄の場合で、1,200度前後、アルミ合金の場合で400度か450度まで上げた状態でたたきます。冷感鍛造・中間鍛造に比べ高い強度の製品になり、大きなものも作れます。
  • 冷間鍛造=常温で加工します。当然のことながら、素材は硬いままで、たたくのには高い圧力や回数が必要です。複雑な形状のもの、大きなものも作れません。その代わりに、加工後の表面は滑らかです。また、温度変化による膨張・収縮がないために、精度の高いものが作れます。
  • 温間鍛造=素材にもよりますが、作業温度は300〜800度です。特徴も熱間・冷間の中間です。

 

加工方法による分類

  • 型鍛造=上下一対の金型を用意し、それらに挟み込むようにして素材をたたきます。作業スピードは速く、鍛造の中では大量生産に向いています。ただし、金型は非常に高額です。
  • 自由鍛造=平面、あるいは単純な曲面の工具で素材の一部ずつをたたいていきます。多品種少量生産向きですが、作業者に高度なスキルがなくては成り立ちません。
  • そのほか=鋳造中の湯(溶かした金属)の中に、工具を押し込むことで圧力を加え、鋳造と鍛造を同時に済ませてしまうのが、溶湯(ようとう)鍛造です。近年は、このようにほかの加工方法と組み合わせる研究が進んでいます。

 

鍛造と鋳造の違い

鍛造とよく比較されるのが鋳造(鋳物)です。もちろん、鍛造ならば鍛造、鋳造ならば鋳造にもそれぞれ種類があり、特徴も異なります。ただ、全体的には次のような違いがあります。

 

  鍛造 鋳造
加工方法

素材を繰り返し叩くことで成形する

(型を使う場合と使わない場合がある)

素材を高温で溶かし、型に流し込む
製品の強度 高い 低い
大量生産

自由鍛造は向かない。

型鍛造はやや向いている

向いている
多品種少量生産   向いている 向かない(ただし、砂型鋳造なら向いている)
複雑な形状 難しい 容易
コスト 高い 安い

 

中には、鍛造によるものと鋳造によるものの両方が身近なところで出回っている製品もあります。自動車タイヤのホイールや指輪はその典型でしょう。どちらの場合も、値段が安い・デザイン(形状)が豊富・厚ぼったくて重いといった場合はかなりの確率で鋳造、その逆ならば鍛造です。

 

まとめ 強度が求められる用途だからこそ業者選びは慎重に

鍛造といっても、様々な種類があります。また、加工する金属も鉄、アルミ合金、ステンレスなど挙げていけば切りがありません。サイズも、大は数百トンから小はクギ程度のものまであります。加えて、自由鍛造ならば完全に職人技の世界です。特大製品だったり、溶湯鍛造のように複雑な加工が必要になったりするのならば、それに合った装置がなくては作れません。

 

鍛造の部品は、製品全体の中でキーになるような重要で強度の必要なものが少なくありません。クランクシャフトはその典型でしょう。失敗が許されない度合いは、ほかの方法で作る部品よりも高いのではないでしょうか。もし、鍛造の製品を発注するのならば、ピンポイントで自社の望む製品が作れる業者を選ぶ必要があります。

 

参考サイト

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