厳しい寸法公差を実現する精密鍛造 量産品のコスト削減に貢献

2021/02/16

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機械加工
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鍛造はハンマーや金型で素材の金属をたたき、強度を上げると同時に成形をする加工方法です。成形の精度でいえば、鋳造よりは勝るものの切削には劣るとされてきました。しかし、近年の加工方法の進化・工夫により切削の精度に迫りつつあります。これを「精密鍛造」と呼びます。

 

精密鍛造の定義

「精密鍛造」の厳密な定義はないものの、おおよそのところ「切削などのほかの加工をプラスする必要がないぐらいに精度の高い鍛造」と理解すればいいでしょう。

 

精密鍛造のメリット・デメリット

一般的に、コストなどの面で最も大量生産に適した加工方法は鋳造です。ただし、高温で溶かした金属素材を型に流し込む方法のために精度には欠けます。この欠点を補うために、改良された鋳造方法もいくつか登場しました。たとえば、ダイカストでは流し込む金属素材に圧力を加え、細かい造形の金型にも対応できるようになっています。ただ、それでも実現できる精度には限界があります。

 

バイトやドリルなどで成形する切削加工は、鋳造の逆です。精度は高いものの、手間がかかるために大量生産には向きません。また、削りカスが出るために、素材に無駄が出て、その分もコスト高になります。

 

精度とコストの面で、これら鍛造と切削の中間的な存在が鍛造です。また、何度もたたくことで、素材の内部組織の密度が高くなり、靭性(じんせい。粘り強さ)なども強化されるのは鍛造ならではのメリットです。

 

従来、精度と強度の両方が必要な場合は、鍛造で作った製品にプラスして切削加工をし、精度を上げていました。精密鍛造ならば切削加工は不要になります。もちろん、工程を減らしコストを下げることができます。

 

「ネットシェイプ成形」も事実上「精密」と同じ意味

精密鍛造は「ネットシェイプ成形」の一種です。

 

「ネットシェイプ(Net shape)」の「shape」はもちろん「形」のことです。また、この場合の「net」は「最終の」です。やや意訳すると、「そのままで成形加工は完了している」と考えていいでしょう。ですから、「(鍛造での)ネットシェイプ成形」も、「精密鍛造」と意味は変わりません。また、「ほぼ追加の加工が不要」な場合には「ニアネットシェイプ(Near net shape)成形」といいます。

 

鍛造だけではなく、鋳造・プレス・板金などほかの加工方法にもネットシェイプ成形・ニアネットシェイプ成形をセールポイントにするものが増えました。プレスや板金などはもともと精度が出しやすいために、ネットシェイプ成形・ニアネットシェイプ成形へのハードルは高くありません。

 

一方、やはり難しいのが鋳造です。もともとの精度が低いために、「(鋳造での)ネットシェイプ成形」や「精密鋳造」であっても、精密鍛造ほどの精度は期待しないほうがいいでしょう。

 

精密鍛造に用いられる冷間鍛造・型鍛造とは

鍛造にもいくつか種類があります。また、工法のうちのどこに注目するかで種類の分け方も変わってきます。精密鍛造に用いられるのは、もっぱら冷間鍛造です。また、冷間鍛造ならば自動的に型鍛造しかありません。

 

最も古くから発達したのは、熱間鍛造・自由鍛造です。金属素材を高温にして変形しやすくし(熱間鍛造)、ハンマーなどでたたく(自由鍛造)方法です。典型的には日本刀作りをイメージすればいいでしょう。

 

しかし、これでは大量生産できません。そこで出てきたのが上下の金型を作り、それらに挟み込むようにしてたたく、「型鍛造」です。また、金属素材は加工中の高温から冷めると収縮し、それが製品の精度の狂いとなることが少なくありません。そこで、室温で加工する「冷間鍛造」が登場しました。今では、精度が求められる製品は必ずといっていいぐらいに、冷間鍛造で作られています。

 

ただし、低温の金属素材は変形しにくいために、「たたく回数を増やさなければならない」「金型への負担も大きく、壊れやすい」といった難しさもあります。また、熱間鍛造での型鍛造に比べ、作業する人には高いスキルが欠かせません。

 

また、金型を使い、熱間・冷間の間の温度で加工する温間鍛造も普及しています。もちろん、精度を含む特徴は両者の中間です。

 

精密鍛造に使われる型鍛造の種類

精密鍛造には、素材の温度による区別ではもっぱら冷間鍛造か温間鍛造が使われます。工夫されたり選択肢があったりするのは、それらと組み合わせる型鍛造のほうです。型鍛造には、以下のような種類があります。

 

密閉鍛造

上下の金型が合わさったときに外への隙間はありません。また、加工し終わったときには、金型の空洞部分は全部素材で満たされます。バリ取りさえ不要なネットシェイプ成形が可能です。半面、金型への負担が大きいというデメリットがあります。

 

また、わざと上下の金型の間に隙間と作り、余分な金属素材を逃す方法を「半密閉鍛造」といいます。ニアネットシェイプ成形でよければ、これも選択肢になるでしょう。

 

閉塞(へいそく)鍛造

先に上下の型に金属素材を挟み込み、それに対して、穴を通して上からや下から、あるいは上下両方からパンチ呼ばれる金属部品を打ち込みます。圧力を加えられた金属素材は、上下の金型の空洞部分に押し込まれたり、パンチの先端の型に合わせられたりすることで成形されます。

 

押し出し

専門家の間でも、型鍛造に含めるかどうかは分かれるところです。ただし、「穴からパンチを打ち込む」という点で、閉塞鍛造に似ています。

 

打ち込む反対側に穴を開けてあり、ここから金属素材が押し出されることで棒状の部分ができます。これを「前方押し出し」といいます。あるいは、穴とパンチの間に隙間があれば圧力を加えられた金属素材がこの隙間に回り込みます。これは「後方押し出し」です。

 

ただでも金型への負担が大きい鍛造ですが、押し出しは中でも最大級のものです。ただし、細長い製品や中空の製品を作るのに適しています。

 

もう一段上の性能の金型が必要になる精密鍛造

精密鍛造でカギを握るのは、何といっても金型です。もちろん、精密な製品を生み出すには、金型も精密でなければいけません。また、この金型の強度が低ければ、ほんの少しの個数を生産しただけで使いものにならなくなります。自社で精密鍛造の製品に取り組む場合には、この金型の設計や試作には高い技術をもった業者を選びたいところです。

 

また、精密鍛造の製品自体を外注する場合にも、慎重に業者を選びましょう。同じ装置や金型を使っても、作業する人のスキル次第で品質に大きな差が出ます。

 

参考サイト

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