2021/06/25
「試作板金」という言葉には少し注意が必要です。
「板金(加工)」とは、もちろん、「曲げたりしぼったりして金属板を変形させること」をいいます。厳密にいえば、切断や溶接などのほかの加工は含みません。しかし、「試作板金」の現実の受発注では、切断どころか、素材の選択や溶接、表面処理まで含むことが珍しくありません。
「試作板金」といった場合、「量産品と比較して同等以上に精度を上げた、チェック用の金属加工製品」と考えたほうがいいでしょう。もちろん、新製品や改良品を量産する前には欠かせません。設計時のミスを防ぎ、さらなる改善の余地を発見する大事なステップです。
試作板金以外の板金には、プレスや量産板金があります。試作板金を理解するには、この2つとの違いを知っておくのが早道です。
「量産」にはしっかりとした定義はなく、数十単位のことをいう場合もあれば、数千単位かそれ以上のことをいうこともあります。「すでに仕様の固まった製品を繰り返し作る」「実際に中間部品や最終製品の一部として使われる」のが試作板金との違いです。
そのため、試作板金よりもコストダウンや工程のシンプル化・自動化などが重視されることが珍しくありません。
工程のシンプル化・自動化の典型が、専用の金型を作って金属板を押し当てるプレスです。大量生産が容易なだけはなく、作業者の高度な技術は必要ではありません。
ただし、「厚板には向かない(プレスしきれない)」「金型の設計ミスや摩耗などによる不良品が出ることがある」などの制約があります。
また、金型をつくる段階で時間とコストがかかるため、一定以上の生産量でないと割高になってしまいます。
試作板金では、まだ形になっていないものを形にしたり、なっていても変更を加えたりします。そのため、通常は、業者への見積もりの段階から図面が必要になるものと考えてください。
製作数は少ロット、場合によっては1個でも作ることになります。
実際の作業は、形が決まっている汎用(はんよう)の金型を使っての手作業の「精密板金」や、ハンマーでたたくなどする「手板金」、レーザーを使った切断、ベンダーを使った曲げなどの組み合わせになります。
板金加工業者の中でも、試作板金を専門にやっているところが少なくありません。それだけ特別な技術と知識が必要と考えていいでしょう。言い換えれば、「職人技が支える世界」です。
そうなる主な理由は次のとおりです。
試作板金で実際に行われる加工は多種多様です。その加工それぞれにも、業者ごとに得意なものとそうでないものがあります。発注する際には、自分たちが必要としている製品ではなにがキーポイントになっているかを考え、マッチする業者を選ばなければいけません。
・精度=設計上の寸法と実際に作ったものの寸法ではいくらかの狂いが出ます。オーバーした側の許容範囲を「最大許容寸法」、その逆が「最小許容寸法」といいます。両方の差を「寸法公差」といい、精度といった場合は即座にこれを指すことが珍しくありません。
長さが100ミリ以内ならば、±0.05ミリ前後が一般的です。逆に、1メートル2メートルならば、ほとんどが±1ミリ単位で設定されているでしょう。
もちろん、精度が高いのが望ましいのは間違いのないところですが、無駄なレベルまで追い求めてしまうと、加工価格が高くなり過ぎます。
・2次加工の有無=試作板金といっても、現実にはほかの加工まで含みます。切断、溶接ばかりではなく、塗装やめっきまでといった表面処理まで含めて考えなければいけません。
ただし、これらの加工全部を外注する必要はなく、自社内ではできない工程だけに限ることで、コストを下げることもできます。
・素材/厚物・薄物=板金加工には様々な金属が用いられ、曲げやすさ・割れやすさなどその性質も様々です。当然、予定している金属が得意なところを選ばなければいけません。また、特殊な金属を用いるときには、「十分な在庫があるかどうか」もチェックしましょう。そうしないと、「素材が入荷するまで、時間が無駄になってしまった」ことになりかねません。
・納期=試作板金は何度も作り直すのが前提になっています。納品の遅さはどんどんと蓄積していきます。そうなるようでは、ライバルメーカーとの開発競争にも遅れを取りかねません。
試作板金は、実際には板金以外の加工まで行うため、出来上がりの良しあしのチェックポイントもそれだけ多くなります。また、「次はここをこう変えてくれ」というのは、主に発注主側の仕事です。なので発注主の力も問われると考えていいでしょう。
金属部品に限らず、大量生産する工場はすでに多くが海外に移りました。しかし、試作板金は国内で行うことがほとんどで、幸いなことに候補となる業者もたくさんいます。しっかりとタッグを組んで、商品開発に当たってくれる相手を選ぶようにしましょう。
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